科学論文紹介

膵がん細胞はオートファジーによりMHC-Iを分解することで免疫監視機構から逃れている

acworksさんによるイラストACからのイラスト

論文タイトル:Autophagy promotes immune evasion of pancreatic cancer by degrading MHC-I (Nature: pubmed link)

がん細胞は様々なメカニズムにより免疫監視機構から逃れることで増殖することが知れており、その有名な例として主要組織適合抗原複合体のclass I (MHC-I)の遺伝子変異による発現低下が挙げられる。

他のがんと同じく膵臓がんでもMHC-Iの蛋白質レベルが低下している。しかしながら、膵臓がんでは、MHC-Iを欠損させるような遺伝子変異はほとんど検出されない。この理由は長らく不明なままであったが、今回筆者らにより、オートファジーによるMHC-Iを分解が膵臓がんの免疫監視機構の回避メカニズムであることが示された。

まず、筆者らは免疫染色などの実験により、膵臓がん細胞ではMHC-Iがリソソームへと輸送されていることを示す。ATG3やATG7のノックダウンによりオートファジーを抑制してやると、細胞全体、細胞膜上でのMHC-Iレベルが上昇するという結果が得られた。以上より、膵臓がんではオートファジーによりMHC-Iが分解されていると考えられる。

続いて、MHC-Iのオートファジーと免疫回避の関係を調べるために、膵臓がんと細胞障害性CD8+ T細胞との共培養を試みた。なお、この実験では、膵臓がんにはモデル抗原のOVAを過剰発現させておき、CD8+T細胞はOVA特異的なものを選択している。共培養の結果、見事に、オートファジーを抑制した群では細胞生存性が有意な低下が見られた。なお、この低下はMHC-Iの遮断抗体により(部分的にではあるが)キャンセルされた。
さらに、マウス膵臓への移植実験により膵臓がん細胞の免疫原性を評価したところ、オートファジー抑制群はコントロールと比較して、形成する腫瘍のサイズが小さく、CD8+T細胞の流入が増加していた。ここまでの結果より、膵臓がん細胞はMHC-Iのオートファジーにより、CD8+T細胞の攻撃から逃れていると考察できる。

最後に筆者らは、膵臓がんでの抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体による免疫チェックポイント阻害療法の効果を評価した。その結果、既報と一致して、膵臓がん細胞は免疫チェックポイント阻害療法に対して抵抗性を示した。しかし、オートファジーを抑制した条件では抗PD-1抗体と抗CTLA-4抗体の投与による腫瘍の増殖抑制が確認された(前述とおなじ実験系)。

まとめると、膵臓がんはMHC-Iのオートファジーにより免疫監視機構を逃れており、オートファジーを抑制してやれば免疫チェックポイント阻害療法にも感受的になる。 これに限った例でないが、 がん細胞が細胞の内在的なシステムを巧みに利用することで増殖していく様子は、たくましいものだと思わされずにはいられない。