科学論文紹介

細胞障害性T細胞から放出される細胞障害性顆粒は糖蛋白質の殻構造を足場とした超分子集合体である

みずさんによるイラストACからのイラスト

論文名: Supramolecular Attack Particles Are Autonomous Killing Entities Released From Cytotoxic T Cells (Science: pubmed link)

細胞障害性T細胞(CTL)は、標的細胞との境界面にグランザイムやパーフォリンが含まれた顆粒を放出することで、細胞死を誘導することが知られている。しかしながら、この顆粒の正体はよく分かっていなかった。筆者らは、観察こそ科学の神髄だと言わんばかりに、「見る」ことに力を注ぎ、その顆粒の正体に迫った。なお、筆者らはこの顆粒をSupramolecular Attack Particles (SMAPs)と命名している。
※主な著者はイギリス人なので、例のグループを意識したわけではなかろう、、、

まず、SMAPsの動態を調べるために、固体表面に脂質二重膜を支持した支持膜 (supported lipid bilayer; 以下の実験では活性化基質を提示させている)上でCTLを培養し、全反射照明蛍光顕微鏡により観察を試みた。
その結果、CTLが支持膜との境界面にグランザイムを含むSMAPsを速やかに(1min以内に)放出する様子が観察された。
さらに、培養後にCTLを除いても支持膜上にSMAPsは残存しており、ここに標的細胞をふりかけたところ、標的細胞の細胞死が検出された。以上から、SMAPsは非常に安定した構造と細胞障害性を有することが明らかとなった。

続いて、質量分析によりSMAPsの構成蛋白質の同定を試みたところ、18の蛋白質が再現性良く検出された。
その中には、カルシウム結合サイトを持つTPS1が検出され、CTLによる細胞死誘導にカルシウム依存性のステップが含まれることから、SMAPの重要な構成蛋白質の候補と考えられた。
なお、細胞膜に存在するタンパク質は検出されず、SMAPsは膜をもたない構造体であることも示唆されている。
CRISPR/Cas9によりTPS1をKOしたところ、CTLの細胞障害性の有意な低下が確認された。

ここで、多くの超分子複合体はリン脂質の二重層を足場としている。そこで、DiDというリン脂質膜を染める試薬をSMAPsに添加したが、シグナルは陰性であった。この結果は、質量分析で、細胞膜に存在するタンパク質が検出されなかったこととも一致している。
一方で、筆者らは、SMAPsはAlexa Fluor 647-WGAで染色される性質を持ち、糖蛋白質を有することを突き止めている。そこで、20 nmの解像度をもつ確率的光学再構築顕微鏡(dSTORM)によりその染色像を観察したところ、平面ではシグナルが輪状に検出され、WGA染色が直径120±43 nmの球殻状であることが示唆された。
さらに、SAMPsの構成蛋白質をmulticolor dSTORMで観察したところ、TSP1はWGAと共局在しており、グランザイムやパーフォリンはWGAに囲まれた領域に局在している様子が観察された。
また、炭素の多い細胞構造を非破壊的に3次元構築できるcryo-soft x-ray tomographyでもSMAPsを観察したところ、dSTORM の結果と一致して、111 ± 36 nmの球形であることが確かめられた。

以上の観察結果から、SMAPsはリン脂質二重層ではなく、TSP1を含む糖蛋白質の球殻構造を足場とした顆粒であること考察される。