科学論文紹介

神経幹細胞は中間径フィラメントによりプロテオームを調整する

acworksさんによる写真ACからの写真

論文タイトル:Vimentin Coordinates Protein Turnover at the Aggresome during Neural Stem Cell Quiescence Exit (pubmed)

Introduction

細胞は蛋白質の産生・分解を繰り返すことプロテオームを維持しており、この恒常性維持機構の破綻は、損傷・ユビキチン化・折り畳み不全蛋白質の蓄積や細胞の機能不全につながります。
特に、体性幹細胞のおける恒常性維持機構の破綻は、細胞老化の指標ともなっており、組織の維持にも影響を及ぼします。
体性幹細胞における恒常性維持機構の1つとして、非対称な細胞分裂により、片側の娘細胞に損傷・ユビキチン化を継承することが知られています (pubmed)。片方の娘細胞に不要なものを押し付けるイメージですね。なんてひどい親なんでしょうか
さて、神経幹細胞の細胞分裂では、ユビキチン化蛋白質とともに、中間径フィラメントの構成蛋白質であるビメンチンが共局在することが報告されており、vimentinがユビキチン化蛋白質の除去を担っているのではないかと考えられてきました (pubmed)。

Result

Vimentinは神経幹細胞においてプロテオソームを蛋白質凝集体に集積させる役割を担う

神経幹細胞においてvimentinがプロテオームの恒常性維持に果たす役割を調べるため、筆者らは、vimentinの3’側にmNeonを挿入したマウスを作製し、このマウスの海馬からFACSにより回収した神経幹細胞を用いて実験を進めます。
まず、この神経幹細胞にプロテオソーム阻害剤MG132を添加したところ、K48ポリユビキチンの凝集体をvimentinが覆うように局在するというデータが得られました。また、凝集体を作る性質を持つHttQ119を強制発現させた場合も同じようなデータが得られ、vimentinが凝集体を覆い囲むことが確認されました。

続いて、vimentinを欠損(KO)した神経幹細胞を作製しますが、細胞分裂や分化能、生存性には影響はなく、MG132添加によるK48ポリユビキチンの凝集体形成もコントロールと同様に観察されました。残念ながら異常は見られなかった訳です。
ここで、筆者らはポリユビキチン化蛋白質を分解するプロテオソームに着目します。免疫沈降や免疫染色を行ったところ、vimentinはプロテオソームと相互作用していることが示唆されます。さらに、WTの神経幹細胞では、プロテオソームは蛋白質凝集体に集積する傾向があるのに対し、KOの神経幹細胞では、プロテオソームは細胞全体に散らばっている様子が観察されます。
以上から、vimentinには、プロテオソームを蛋白質凝集体に集積させる機能があると考察されます。

Vimetinは神経幹細胞の細胞分裂にあたってプロテオソームを不均等に分配する

さて、ここで休止期にある神経幹細胞は蛋白質凝集体を高レベルで有しており、細胞分裂の再開にあたってこの凝集体が分解されることが報告されています (pubmed)。そこで、休止期にある神経幹細胞を解析したところ、驚いたことに、vimentinの蛋白量が少なく、蛋白質凝集体周辺での局在も見られませんでした。
そこで、細胞周期の再開を誘導し、経時的に観察したところ、vimentinの蛋白量の増加が見られ、細胞分裂間期には蛋白質凝集体を覆うような局在も観察されるようになっていました。
また、KO細胞に対しても細胞周期再開の誘導処理を施したところ、WT細胞に比べて細胞分裂能が低いという結果が得られることから、vimentinが休止期からの脱出に役割を果たしていることが示唆されます。
そこで、WT細胞とKO細胞の細胞分裂を詳細に調べたところ、K48ポリユビキチンはWT細胞・KO細胞とも均等に娘細胞に継承されたのに対し、プロテオーソームはWTの細胞では非均等に、KOでは均等に、娘細胞に継承されていることが明らかとなりました。
つまり、vimentinがプロテオーソームの不均等分配に必須である<\span>ことが示唆された訳です。

Vimentin KOマウスは神経幹細胞の分裂能低下が加速している

最後に、細胞(in vitro)でなくマウス個体(in vivo)の解析も行います。
分裂している神経幹細胞をtemozolamie処理により枯渇させ、休止期にある神経幹細胞の分裂を誘導したところ、in vitroの結果と一致して、KOマウスはWTマウスに比べて細胞分裂能が低いという結果が得られます。
さて、老化における神経形成の低下は、神経幹細胞が停止期に留まる時間が長くなるからではないかという報告があります(pubmed)。そこで、老齢とvimentinの関係を調べたところ、KOマウスの方が老化における神経幹細胞の分裂能の低下が早いというデータが得られました。なお、神経幹細胞の数自体は変化がなかった模様です。
以上から、in vivoにおいても、vimentinは神経幹細胞の細胞分裂再開に機能を果たしていることが示唆されました。

Disucussion

神経幹細胞の細胞分裂と蛋白質凝集体についての報告でした。

多くの神経変性疾患は異常なタンパク質凝集体が原因となって発症しますが、神経幹細胞における蛋白質凝集体の制御と関連しているのかもしれません。
例えば、凝集体が神経幹細胞に蓄積することで神経細胞が補充されなくなって病気が発症する、逆に、凝集体が蓄積した神経幹細胞が分裂しなくなることで病気の発症を遅らせる防御機構といった感じでしょうか。不均等細胞分裂により、凝集体が蓄積していても、片側の娘細胞だけでも正常に保つといったことも考えられますね。

ところで、プロテオソームの不均等分配が示されていましたが、プロテオソームを多く継承した細胞が分化していくのか、それとも幹細胞プールの維持に関わるのかどちらなのでしょうね。in vivoの老化に関するデータも興味深いです。多くの体性幹細胞が18-24カ月齢で老化による変化が見られ始めるのに対し、神経幹細胞は2カ月齢で分裂能が低下し始めるという報告もあるようです。老化してからも神経幹細胞から神経細胞が補充できる方法が開発できれば、多くの神経疾患を克服できるかも?