科学論文紹介

コンピューターシミュレーションで薬ができる時代の到来

うどんさんによるイラストACからのイラスト

論文名: Virtual discovery of melatonin receptor ligands to modulate circadian rhythms (Nature)

コンピューターシミュレーションを基に、メラトニン受容体の逆作動薬(*)を開発した報告(pubmed)。

*逆作動薬(inverse-agonist): 作動薬(agonist)が受容体を活性型にするのに対し、逆作動薬は受容体を不活化型にする。なお、拮抗薬(antagonist)は、受容体に結合しても何も作用を及ば差ない物質であるため、逆作動薬と拮抗薬は全く別物である。

筆者らは、まず、コンピューター上でメラトニン受容体MT1の結晶構造に対して1.5億個(!)の化合物の結合を評価し、40個の候補化合物を選定した。
続いて、実際にヒトMT1/MT2受容体に対する活性を評価したところ、合成できた38個の候補化合物のうち15個が活性を有していた。約4割という驚異のヒット率である。
なお、これら15個のヒット化合物のうち、MT1選択的なものは4個、MT2選択的なものは4個、選択性のないものは7個であった。

さらに131の合成類自体の合成・評価により、選択性や結合力が向上させた後、MT1受容体選択的な逆作動性を有する2つの化合物(UCSF7447 and UCSF3384)をマウスに投与してその機能を調べた。
まず、6時間点灯の時間を前倒しする時差ボケモデルにおいて、UCSF7447/UCSF3384はMT1/MT2拮抗薬であるluzindoleと同様に、時差ボケからの復帰を長引かせた(メラトニンの投与は、復帰を早める)。
一方、睡眠導入効果について評価するために、夕方に相当するCT10でUCSF7447/UCSF3384を投与したところ、予想外にも、メラトニンと同様に1時間ほど睡眠に入る時間が早くなった。
なお、明け方に相当するCT2でメラトニンを投与すると睡眠に入る時間が遅くなることが知られているが、UCSF7447はCT2での投与で睡眠に入る時間を変化させなかった。

類似化合物の検討による最適化が必要とはいえ、コンピューターシミュレーションで効率よく候補化合物を探索できるのは非常に魅力的である。また、CT10における投与で逆作動薬が作動薬(メラトニン)と同様に睡眠導入効果があったことは、MT1受容体の未知のシグナル制御機構の存在を示唆している。