科学論文紹介

母乳に含まれる自然抗体の交差反応により新生児での細菌感染が防がれる

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Introduction

論文タイトル:Microbiota-targeted maternal antibodies protect neonates from enteric infection (pubmed)

Wen et al.から、母乳に含まれる自然抗体が交差反応することで新生児での細菌感染が防ぐことがNature誌に報告されました。

新生児は免疫系が未発達で、抗体といった獲得免疫のエフェクターを産生能が低く、加えて、病原細菌の定着を防いでくれる共生細菌も少ない状態であるため、細菌に対する防御能が非常に低くなっています。これだと新生児は細菌にやれたい放題な訳ですが、胎盤や母乳を通じて受動的に抗体を獲得することが知られています。自分では作れないけれども、母親から分けてもらっている訳ですね。
なるほど、母親からの抗体が感染防御に効いているだろう、というのは広く受け入れている考えなのです。しかし、一点、疑問に思うことがあります。それは、母親が暴露されたことのない病原体には、新生児は結局やられたい放題なのかということです。この疑問は、母親の自然抗体(病原細菌への暴露とは関係なく元々産生している抗体のこと)が、新生児の感染防御を助けることができるのかと、言い換えることができます。今回の報告は、マウスを使ったエレガントな実験によりこの疑問を解き明かしてくれました。さて結果に入りましょう。

Results

母乳に含まれる自然抗体により新生児は感染防御能を獲得する

筆者らは、母乳に含まれる自然抗体(mNab)が新生児の腸内感染を防げるのかを調べるために、成熟B細胞を産生できないμMTのノックアウトマウスを利用した実験を組みます。文章だけだとすこしややこしいですが、μMT+/-の母親マウスから生まれてくる新生児は母親からの抗体を受動することができるけれども(mNab+と表記)、μMT-/-の雌マウスから生まれてくる新生児は母親から抗体を受動することができない(mNabと表記)という実験系です。また、この論文では、母親マウスが感染したことのない病原細菌として、主にヒト由来の腸管毒素原性大腸菌(ETEC6)を使用します。
まず、6~7日齢の新生児マウスに致死未満量のETEC(107 CFU)を経口投与したところ、mNab+はmNabに比べて、ETECのコロニー形成が33倍ほど低いという結果が得られました(Fig. 1A)。さらに、致死量のETEC(109 CFU)を経口投与したところ、投与後20時間時点で、mNab+はすべてが生存していたのに対し、mNabは17%しか生存できないという結果も得られました(Fig. 1B)。なお、6~7日齢の新生児マウスを対象としているので、血清中・腸管内どちらにおいても、mNab+のみでIgGが検出されます(Fig. 1C & D)。つまり、母親がETEC6に感染したことがないにも関わらず、母乳由来の抗体が新生児におけるETEC6の感染を防いだと解釈できます。
さて、感染防御を担ったのはどのクラスの抗体でしょうか。これを調べるために、mNab+の新生児マウスから腸内細菌を回収しFACSを行ったところ、回収した腸内細菌はIgGとIgAの両方でコートされているという結果が得られました(Fig. 1E)。これは、IgGとIgAの両方ともが母親マウスから新生児マウスに受動されていることを示唆します。なお、GFPを付加したETEC6を経口投与することで、ETEC6をコートする抗体のクラスを調べたところ、IgGのみが検出されたようです(Fig. 1D)。つまり、IgGとIgAの両方が感染防御を担う可能性はありますが、ETEC6の場合はIgGが感染防御を担っているようです。
ここで、母親からの受動抗体には胎盤を介するものと母乳を介するものがあります。どちらが効いているのでしょうか。これを調べるために、mNab+の新生児マウスをmNabの代理母親マウスに育てさせる群(mNab+ ⇒ mNab-;)と、その逆の群(mNab ⇒ mNab+)を準備します。その結果、血清中・腸管内のIgG濃度、また腸管内におけるIgA濃度ともに、mNab ⇒ mNab+群の方が有意に高くなっていました(Fig. 1G – H)。さらに、致死未満量のETEC6(107 CFU)を経口投与したところ、mNab ⇒ mNab+群の方が、ETEC6のコロニー形成が30倍ほど低いという結果が得られました(Fig. 1J)。これらの結果から、母乳を介して受動された自然抗体がETEC6の感染を防いだと考えられます。

胎児性Fc受容体により母乳に含まれる抗体を吸収する

さて、母乳により腸管内のIgG濃度が高まるのは分かりますが、血清中のIgG濃度まで高まるのは何故でしょうか。この疑問に答えるため、IgGと高い結合能をもち、かつ、新生児の腸管上皮細胞に発現することが知られている胎児性Fc受容体に着目します。胎児性Fc受容体の関与を調べるために、FcRnをヘテロまたはホモで欠損したμMT-/-の新生児マウスを準備し、μMT+/-の代理母親マウスに育てさせます。血清中のIgG濃度を測定したところ、見事に、μMT-/- FcRn+/-では1 mg/mLほどの濃度でIgGが検出されたのに対し、μMT-/- FcRn-/-では全く検出されないという結果が得られます(Fig. 2B)。つまり、母乳に含まれるIgGは胎児性Fc受容体を介して血液中に移行すると考えられます。

腸内細菌に対する抗体が交差することで新生児の感染が防がれる

ETEC6に一度も感染したことがない母親マウスからの母乳が、新生児にETEC6に対する防御を付加するということは、一般的なSPF(特定の病原体のみが存在しない)環境で飼われているマウスが、ETEC6に交差するIgG抗体をもともと有していると考えられます。実際、完全な無菌環境で飼われたマウスに比べて、SPFで飼われたマウスの抗体は、ETEC6に反応する抗体量が有意に多いというデータも得られています(Fig. 3A & B)。さらに、詳細に解析することで、腸内細菌の一種であるPantoea種に対する抗体がETEC6に交差反応していることまで突き止めます(Fig. 3E & F)。また、無菌環境にいる母親マウス、無菌環境でPantoea種のみを植え付けた母親マウス、それぞれに育てさせた新生児にETEC6を経口投与したところ、後者は前者に比べて有意にETEC6に対する防御能が獲得されることも確かめられています(Fig. 4)。なお、ETEC6以外でも、大腸菌株Nissleやサルモネラ菌に対しても、完全な無菌環境で飼われたマウスに比べて、SPFで飼われたマウスでは、交差反応する抗体量が有意に多いことも調べています(Ex. Fig. 5 A & B)。これらの結果をまとめると、腸内細菌が暴露されたことのない病原体に対する交差抗体を誘導し、これが母乳を通じて胎児の感染防御に効くと考えられます。

Discussion

母親は自然抗体により、今まで暴露されたことのない病原細菌からさえも、新生児を守るという報告でした。ほんと、母親ってすごいですね、、、
腸内細菌が病原細菌に交差する抗体を誘導するという結果でしたが、腸内細菌叢は人によって違うことを考えると、新生児に付与される交差抗体も母親によって変わってくるのでしょうか。