科学論文紹介

ストレスが白髪の原因となることが科学的に示されたよというお話

casa4さんによるイラストACからのイラスト

Introduction

論文タイトル:Hyperactivation of sympathetic nerves drives depletion of melanocyte stem cells (pubmed)

ストレスが白髪の原因となることは、経験的・逸話的には広く受け入れられていますが、ストレスと白髪の関係の科学的根拠はそれほど確立されていません。そんな中、Bing et al.から、ストレスによる交感神経の活性化が色素幹細胞を消失させることがNature誌に報告されました。
内容もさることながら、ストレスが白髪の原因となるメカニズムがしっかり詰められており、論理展開が非常に美しい論文でした。
さて、結果の紹介に入る前に、簡単な毛髪の基礎知識について。哺乳類の毛髪は、休止期・成長期・退行期からなる毛周期を回しており、生涯を通じて、生えたり・抜けたりを繰り返します。
「成長期」には、毛包のバルジ領域に存在する2種類の幹細胞(毛包幹細胞と色素幹細胞)が同時に活性化されます。毛包幹細胞の活性化により、新たな毛休部(毛の根本にある膨らんだ部分)が形成されます。同時に、色素幹細胞の活性化により、その子孫細胞が毛包バルジから毛球部へと移動しながら、色素を産生します。この色素が毛髪に取り込まれることで、毛髪が有色となる訳です。

あーやんさんによるイラストACからのイラスト

Results

様々なストレスが毛色消失を惹き起こす

まず、心理的・肉体的ストレスが毛色消失を促進するのかを調べるために、黒色の毛をもつマウス(C57BL/6J)に、拘束ストレス・長期ランダム負荷ストレス・侵害受容ストレス(resiniferatoxin[RTX]の投与により痛みを与える)を与えました。その結果、どのストレスにおいても毛色消失が観察され、特に、侵害受容ストレスは最も強力に毛色消失を促進することが確認されました(Fig. 1A & B)。
また、RTXに同時にオピオイド性鎮痛剤を投与してやったところ、毛色の消失が抑制され、RTXが毛色に与える影響は侵害受容を介してであることが確認されます(Fig. 1D)。
以上の結果から、その種類に依らず、ストレスは毛色消失を惹き起こすと考えられます。

ストレスによる交感神経活性化が色素幹細胞を減少させる

毛色の消失は、メラニンの合成不良・メラノサイト(色素幹細胞からメラノブラストを介して分化成長した細胞)の消失・色素幹細胞の維持不良といった原因が考えられます。そこで、ストレスがメラノサイト系列の細胞にどのような影響を与えるのかを調べるため、色素幹細胞とメラノサイトが両方とも存在する「成長期」にRTXを投与してやります。その結果、メラノサイトの数は変化しないものの、色素幹細胞の数が有意に減少する様子が観察されました(Fig. 1E)。つまり、ストレスによる色素消失の原因は、色素幹細胞の減少であると考えられます。
では、なぜ、ストレスにより色素幹細胞の数が減少するのでしょうか。筆者らは、ここで、いずれのストレスを与えた場合でも、コルチコステロン(ヒトではコルチゾール)、ノルアドレナリンの血中濃度が上昇した(Fig. 1C & D)ことに着目します。まず、TyrcreER2; GRfl/flマウスを作製し、色素幹細胞においてコルチコステロンの受容体を欠損させ、RTXを投与したところ、野生型マウスと同様に毛色消失が観察されました(Ex. Fig. 3D)。一方、TyrcreER2; Adrb2fl/flマウスを作製し、色素幹細胞においてノルアドレナリンの受容体を欠損させ、RTXを投与したところ、毛色消失は観察されませんでした(Fig. 2B)。また、ノルアドレナリンの上昇が毛色消失を惹き起こすのに十分なのかを調べるために、ノルアドレナリンを真皮内の局所に注入したところ、その部位でのみ毛色消失が観察されました。これらの結果から、ノルアドレナリンのシグナル伝達がストレスによる毛色消失に必要十分であると考えられます。
では、ノルアドレナリンはどこから分泌されるのでしょうか。ストレス下における最も代表的なノルアドレナリンの産生箇所は副腎です。そこで、副腎を外科手術で取り除いてやりますが、RTXによる毛色消失は依然として生じます(Fig. 2D)。他に考えられる、ノルアドレナリンの産生箇所は交感神経です。皮膚において、交感神経は色素幹細胞が存在する毛包バルジの近傍で終止しています(Fig. 3A)。神経活動のレポーターとなる転写因子FOSのレベルを調べたところ、RTXの投与1時間以内にFOSのレベルが上昇する様子が観察されました(Fig. 3B)。さらに、交感神経の特異的な神経毒である6-OHDAを投与したところ、RTXによる毛色消失は観察されなくなりました(Fig. 3C)。つまり、交感神経から産生されるノルアドレナリンが毛色消失に関与していると考察できます。
これらの結果をまとめると、ストレスにより交感神経が活性化され、それにより分泌されたノルアドレナリンが色素幹細胞に作用することで、色素幹細胞が減少すると考えられます。

ストレスにより色素幹細胞が過剰分裂・分化する

さて、色素幹細胞が減少する原因として、真っ先に思い浮かぶのが細胞死です。しかしながら、アポトーシスのマーカーとなる活性化capase-3やTUNELシグナルは検出されませんでした(Ex. Fig. 6A & B)。次に考えられるのは、色素幹細胞が活性化することで、幹細胞プールが枯渇してしまっている可能性です。そこで、M期のマーカーであるリン酸化ヒストンH3の免疫染色を行ったところ、コントロールでは6%程度の色素幹細胞で検出されるのに対し、なんと、RTX投与群では、50%近くの色素幹細胞で検出されることが分かりました(Fig. 4B)。また、分裂した細胞を追ったところ、分化した色素幹細胞の特徴である突起を形成し、色素幹細胞のニッチである毛包バルジから離れていく様子が観察されました(Fig. 4C)。つまり、ストレスにより色素幹細胞は過剰分裂・分化し、ニッチから失われていくと考えられます。
ここで、過剰増殖が色素幹細胞消失の原因であるならば、増殖を抑えてやれば、毛色の消失を防げるのではと考えられます。そこで、筆者らは、CDK阻害剤により細胞分裂を抑制した状態で、RTXを投与してやります。その結果、CDK阻害剤投与群では、色素幹細胞の過剰分裂が抑制され、ニッチに幹細胞が維持される様子が観察されました(Fig. 5E)。さらに、これらの維持された色素幹細胞は、未分化の形態・機能を保っており、毛色は問題なく保たれることも確認されました(Fig. 5F)。この結果は、色素幹細胞の増殖抑制が、ストレスによる毛色消失を防ぐのに十分であることを示唆します。

Discussion

ストレスが白髪の原因となることは、誰もが何となく知っていることですが、その経験則に科学的根拠を与えた、そのメカニズムまで解明した報告でした。ほんと、ストレスによる闘争逃走反応は現代社会では不要といっても過言ではないですね。
この論文は、内容もさることながら、実験が緻密に組まれており、非常に説得力があります。こういう論文を読むと、思わずため息がでてしまいますね。