科学論文紹介

腸管神経系由来のIL-18が腸管の感染防御を制御する

toraemonさんによる写真ACからの写真

Introduction

論文タイトル:Enteric Nervous System-Derived IL-18 Orchestrates Mucosal Barrier Immunity. (pubmed)

腸粘膜バリアは病原性細菌の侵入を抑制する役割を担い、このバリアのおかげで、炎症を起こすことなく、腸内細菌との相利共生を維持できることが知られています。
さて、感染防御といえば、当然、免疫細胞が注目されるわけで、免疫細胞と腸管上皮細胞との間のシグナル伝達が腸管細菌叢の恒常性維持に果たす役割というのは、古くから研究されているところであります(pubmed)。
一方で、腸管神経系は病原体関連分子パターンに応答することは古くから知られているものの(pubmed)、その感染防御や腸管細菌叢の恒常性維持に果たす機能というのは、最近になって、ようやく解明が進み始めたところです。
そんな中、Jarret et al.から、腸神経系由来のIL-18が、杯細胞の抗菌ペプチド発現を誘導し、腸管の感染防御を担うことがCellに報告されていていました。

Results

腸管神経系においてIL-18を欠失すると感染防御能が低下する

IL-18は腸粘膜バリアの恒常性維持や宿主防御に重要な役割を担うサイトカインで、Il18欠損マウスでは、サルモネラといった病原性細菌への感受性が高まることが知られています。IL-18は正常時には腸管上皮細胞からその大半が産生され、炎症時には骨髄由来免疫細胞で急激に発現が高まります。
従って、これら2種類の細胞がIL-18を介した宿主の感染防御に効いていると考えられます。これを検証するために、Il18f/fマウスとFlk1-Creマウスを交配させて(以下、Il18f/fFlk1+のように記載)、血液系と上皮系の細胞で特異的にIl18を欠損させ、サルモネラ菌を感染させます。その結果、Il18f/fFlk1+マウスでは、コントロール(Il18f/f、以下同様)と比較してサルモネラへの感受性は高まらないという結果が得られます(Fig. 1A-C)。また、上皮細胞特異的にIl18を欠損させたIl18f/fVil1+マウスでも、コントロールと比較して、サルモネラへの感受性は高まりませんでした(Fig. 1D-F)。つまり、上皮細胞由来・免疫細胞由来のIL-18は、感染防御に必須ではないと解釈できます。
どうしたものかというところですが、筆者らは、脳の神経細胞がIL-18を産生することから着想を得て、腸管神経細胞に着目します。IL-18に対する免疫染色と、Il18 mRNAに対するFISHにより、確かに、腸管神経細胞もIL-18を産生していることが確認されます(Fig. 2A & E)。そこで、Il18f/fHand2+マウスを作製し、腸管神経系で特異的にIl18を欠損させたところ、見事に、コントロールと比較して、サルモネラへの感受性が高まるという結果が得られます(Fig. 3H-K)。
これらの結果をまとめると、腸管神経系からのIL-18産生が感染防御を担うと考えられます。

腸管神経系から産生されたIL-18が杯細胞の抗菌ペプチド発現を誘導する

では、腸管神経系から産生されたIL-18がどのようにサルモネラに対する防御をになうのでしょうか。この疑問に答えるために、IL-18の受容体を腸管神経系や上皮細胞また免疫細胞特異的に欠損するマウスを作製し(Il18rf/fHand2+Il18rf/fFlk1+Il18rf/fVil1+)、サルモネラへの感受性が高まるかを調べます。しかしながら、いづれのマウスも、コントロールと比較してサルモネラに対する感受性には変化がありませんでした(Fig. 4)。
またまた、どうしたものかというところですが、ここで筆者らはRNA-seqを行い、腸管神経系特異的なIL-18欠損により変動するシグナル経路がないかを調べます。その結果、抗菌ペプチド遺伝子の発現が低下していることが分かります(Fig. 5A & B)。さらに、シングルセルRNA-seqを行ない、どの細胞集団で発現が低下するのかを調べたところ、杯細胞(さかずきさいぼう; 粘液分泌に特化した上皮細胞)に相当する集団で、抗菌ペプチド遺伝子の発現が大きく低下することを突き止めます(Fig. 5F)。ちなみに、杯細胞への分化や粘液産生に関わる遺伝子は変化していませんでした(Fig. 5G)。
従って、腸管神経系から産生されるIL-18を欠損させると、杯細胞の抗菌ペプチド産生が阻害されることが分かります。

ただ、杯細胞も上皮細胞の一部なので、Il18rf/fVil1+マウスでサルモネラへの感受性が高まらなかったことと矛盾するようにも思えます。Il18f/fHand2+マウスとIl18rf/fVil1+マウスの腸管で、抗菌ペプチド遺伝子の1つであるRentnlbの発現をqPCRにより調べたところ、前者では大腸全体に渡って発現低下が見られたのに対し、後者では遠位大腸でのみ発現低位化が見られ、近位大腸ではRentnlbの発現に変化は見られませんでした。つまり、近位大腸での抗菌ペプチドの発現によりIl18rf/fVil1+マウスでサルモネラへの感受性が高まらなかったと考えられ、また同時に、腸管神経系から産生されるIL-18は直接的な経路と間接的な経路で、杯細胞からの抗菌ペプチド産生を誘導していることが示唆されます。

発現誘導された抗菌ペプチドが感染防御を担う

さて、抗菌ペプチドは腸内細菌叢の形成・維持に効いていることが知られています。そこで、16Sシークエンシングにより、Il18f/fHand2+マウスの腸内細菌叢を調べますが、コントロールと比較して顕著な差は見られませんでした(Fig. S6D)。
次に、Rentnlb欠損マウスで内粘液層への細菌の浸潤が見られることに着目して、16S FISHによりIl18f/fHand2+マウスの細菌の局在を調べたところ、Rentnlb欠損マウスと同じく、内粘液層への細菌の浸潤が見られました(Fig. 6B)。
つまり、腸管神経系由来IL-18により誘導される抗菌ペプチドは、粘液層を半無菌状態に保つのに必須であると考えられます。
さらに、Il18f/fHand2+マウスの腸管内液を採取し、サルモネラに振りかけたところ、コントロールと比較して、著しく殺菌作用が低下するという結果が得られました(Fig. 6E & F)。
つまり、腸管神経系由来IL-18が欠失すると、腸管内液の殺菌作用が失われると解釈できます。

Discussion

腸管神経系から産生されたIL-18が、杯細胞の抗菌ペプチド発現を誘導することで、感染防御に機能するという報告でした。
ところで、私は生殖生物学の研究に携わっているのですが、精子成熟を担う精巣上体において存在する神経細胞が、精子成熟 に役割を果たしているのかを調べてみたいところです。