科学論文紹介

Lumen Expansion Facilitates Epiblast-Primitive Endoderm Fate Specification during Mouse Blastocyst Formation ~胞胚腔が割球の運命決定に関与する~

acworksさんによるイラストACからのイラスト

Introduction

胚盤胞期胚における胞胚腔の形成が、細胞系列の決定に制御するとことがほうこくされていたのでメモ(pubmed)

着床前胚の最終段階である胚盤胞は、栄養外胚葉(Trophectoderm; TE)、胚盤葉上層(Epiblast; EPI)、原始内胚葉(Primitive Endoderm; PrE)の3種類の細胞系列からなります。

この系列決定は、8細胞期胚から16細胞期胚に至る際のasymmetric segregationにより、極性を持たない内側の割球(Inner cell massのマーカーが上昇)、極性持つ外側の割球(TEのマーカーが上昇)が生じることに端を発します。

ちなみに、初期胚における細胞分裂様式については以下の記事をご参照ください。

そして、32細胞期、64細胞、128細胞期胚とさらなる細胞分裂を繰り返すうちに、EPIとPrEの系列が構築されていきますが、32細胞期胚の段階では、内側の割球はEPIとPrEの遺伝子発現パターンをランダムにとることが知られています。

64細胞、128細胞期胚と進むうちに、Inner cell massの胞胚腔に接する側がPrE、内側がEpiというパターンを取るようになっていく訳です。

このEPIとPrEの構築と並行して、胞胚腔と呼ばれる腔が形成されます。

腔には、組織や発生時期ごとに様々な役割がありますが、胞胚腔の役割はまだ解き明かされてはいません。

時期的に一致していることから、EPIとPrEの構築と胞胚腔の形成の間には何らかの機能的つながりがあるであろうという予測されます。

今回、筆者らは、この2つのイベントの関係性を解き明かしにかかります。

Results

タイムラプス撮影による胞胚腔形成の観察

まず、筆者らは、タイムラプス撮影で胚の発生を観察し、胞胚腔形成の最初の瞬間をとらえることを試みました。

その結果、胎生3.0日に相当する時期において、細胞の皮質側に小胞体が出現し、60秒以内に細胞間隙に放出(エキソサイトーシス)されていく様子も観察されました(Fig. 1C)。

また、細胞と細胞の接着面に多数の微小腔が出現し、それが2-3時間かけて融合していく様子が観察されました(Fig. 1B)。

小胞体のエキソサイトーシスが、細胞間のスペースにおける初期の液蓄積を駆動していると考えられますね

PrE系列の構築に必須とされるFGF4の可視化

ところで、FGF4はPrE系列の構築に必須であることが示されていますが、その発現はEPI系列に限られていることが知られています。

また、臓器形成の過程において、FGFリガンドは微小腔に局在し、シグナル伝達が空間的に制御されることが報告されています(pubmed)。

そこで、Fig. 1Bで観察された微小腔内にもFGF4が局在しているのかを調べるために、fgf4-mNeonGreen mRNAの注入によりFGF4を可視化してやったところ、見事にFGF4が微小腔に局在する様子が観察されます(Fig. 2G)。

このFGF4の微小腔への局在は、腔の微小環境がシグナル伝達の合図となり細胞系列の構築に影響する可能性を示唆します。

腔が拡大していく間の細胞の移動について

さて、Introductionにて、32細胞期胚の内側の割球(細胞)はEPIとPrEの分子的特徴をランダムに獲得することを説明しましたが、PrEの特徴を獲得した細胞は、その後の発生過程で腔の方向へと移動できなければアポトーシス(細胞死)に至ることが知られています。

しかしながら、最初のランダムな位置から、いつ移動し始めるのかは分かっていません。

そこで、細胞の移動と腔のサイズに相関性があるかを調べるために、レポーターマウスから胚を採取してタイムラプス観察しました。

その結果、腔が拡大していく間、EPIのレポーター(Sox2::gfp)は、位置変化の差し引きがゼロに近かったのに対し(Fig. 3D & E)、PrEのレポーター(PdgfrαH2B-GFP/+)は、微小腔の融合が起きるタイミング(胎生3.25日に相当)から既に腔に向かって移動していく様子が観察されました(Fig. 3B & C)。

つまり、腔の拡大がEPI-PrEの運命決定と空間的な分離と関連していることが考察されます

腔のサイズを人為的に操作するとどうなるか?

腔の拡大とPrEの前駆細胞の移動に相関性があったことから、筆者らは、腔のサイズを操作すればEPI-PrEの運命決定と空間的分離に影響がでるのではと仮説を立てます。

そこで、まず、 Atp1(Na+/K+ ATPase) の阻害剤であるouabainを培地に添加することにより、腔のサイズを縮小させ (Fig. 4A & B)、EPI/ PrEのレポーターの挙動を観察しました。

その結果、EPI/ PrEのレポーター両方ともにおいて、蛍光強度が有意に減少することが分かりました(Fig. 4C)。

また、EPIとPrEの前駆細胞集団が分離されず、重なり合っている様子も観察されました(Fig. 4D)。

続いて、マイクロニードルを腔に差し込み、陰圧をかけることで、腔のサイズを縮小させるという手法も試みました(Fig. 5A)。

その結果、EPIレポーターの蛍光強度は変化しませんでしたが、PrEレポーターの蛍光強度が有意に減少しました。

また、Atp1阻害の場合と同じように、EPIとPrEの前駆細胞集団が分離されない様子も観察されました。

これらの結果から、腔の拡大はEPI-PrEの運命決定と空間的な分離を促進していることが示されました。

腔液のFGF4の役割は?

さて、ここまでの実験 (Fig. 4-5) では、EPI-PrEの運命決定において、腔が力学的な機能を果たしているのか(細胞に対する張力とか)、生化学的な役割を果たしているのか(シグナルとか)の区別ができていません。

そこで、筆者らは、Fig.2Gで観察されいたFGF4に着目し、FGF4シグナルの強化・阻害を試みました。

まず、シグナル強化のために、FGF4溶液(500 ng/mL FGF4 with 1 mg/mL heparin) を注入してやったところ、PrEのマーカーであるGata4、EPIのマーカーであるSox2の発現が上昇する様子が観察されました(Fig. 6A & B)。

一方、シグナル阻害のために、FGFR1の阻害剤 (200 nM PD173074)を注入してやったところ、Gata4の発現が低下することも確認されました。

なお、溶液の注入量は腔のサイズがほとんど変化しない程度に抑えてあります(Fig. 6C)。

これらの結果から、腔のサイズそのものではなく、腔の内容物が、EPI-PrEの運命決定を制御していることが示唆されます。

最後に、腔が力学的な役割を果たしているのか、生化学的な役割をはたしているのかを決定づけるために、Fig. 4-5での方法にて腔の体積を縮小させた後に、FGF4溶液を打ちむという実験を行いました。

その結果、FGF4溶液の注入により、完全にではありませんが、Fig. 4-5で見られた異常がレスキューされることが分かりました。

つまり、腔の内容物がEPI-PrEの運命決定を制御していると結論付けられます

Discussion

胚盤胞期胚における胞胚腔の内容物が、EPI-PrEの運命決定と空間的分離を促進することがきれいに示された報告でした。

胞胚腔の内容物については、今回FGF4のみに焦点を当てていましたが、他の因子の影響も今後調べていく必要がありそうですね。

また、胞胚腔が力学的な役割を果たしている可能性も否定しきれないので、今後さらなる研究が必要そうです。