科学論文紹介

Self-Organization of Mouse Stem Cells into an Extended Potential Blastoid ~培養細胞のみから胚が作れる?その2~

buraridaさんによるイラストACからのイラスト

Introduction

先日、マウスExpanded pluripotent stem (EPS)細胞を使った初期胚再構築の論文を紹介したばかりですが、なんと驚いたことに、別のラボからもEPS細胞による初期胚再構築が報告されていました(pubmed)。

Li et al.の論文がCellに受理されたのが2019年9月21日で、今回紹介するSozen et al.の論文がDevelopmental Cellに受理されたのが2019年11月19日みたいです。 ほんとに、競争が激しいですね、、、

Li et al.の報告では、最初にEPS細胞をTrophectoderm(TE)の方向へ分化誘導するという手法だったのに対し、Sozen et al.の報告では、EPS細胞とTrophoblast Stem (TS)細胞を組み合わせるという手法を用いていました。

方法は違いますが、考え方は同じですね。

再構築した胚(EPS-Blastoid)を子宮の中に戻すと、脱落膜形成まで進むという結果も同じです。

データ量や質は、Sozen et al. の方がしっかりしている印象です。

さて、データを紹介していきます。

Results

EPS-Blastoidの構築法(培地については割愛)ですが、まず、EPS細胞を逆ピラミッド型の容器で培養することで凝集体を形成させ、その後、TS細胞を加え、低酸素条件に切り替え(20% ⇒ 5%)培養を続けるという方法です(Fig. 1A)。

低酸素条件に切り替えた理由は、胚盤胞が発生する条件を模倣するためです。

この条件では、なんと61.2%のEPS細胞凝集体が胚盤胞様の構造に発生し、Primitive Endoderm(PE)様の細胞も検出されていました(Fig. 1C)。

胚盤胞で見られるApical domainへのaPKC局在、また、胞胚腔の液を蓄えるためのバリアとなるActin繊維や密着結合も再現されていました(Fig. 1H – J)

さて、初期胚の発生において、PEは、TEに沿って移動していくParietal Endodermと、Epiblast/Extra-embryonic Endodermを囲うVisceral Endodermに分化します。

そこで、PEのマーカーであるGata6でEPS-Blastoidを免疫染色したところ、TE様の構造に沿って伸びていく染色パターンが観察されました(Fig. 3B & C)。

つまり、EPS-Blastoidは、PEからのParietal Endoderm構築を模倣できたという結果です。

また、胚盤胞のTEは、ICM(将来Epiblastとなる)を囲むPolor TEと、胞胚腔を囲むMural TEに分かれます。

Polor TEは高い自己複製能を有しており、将来Extra-embryonic Endodermになるのに対し、Mural TEは着床に際して分化し、母体組織との境界面形成を担います。

そこで、TEの自己複製能のマーカーであるCdx2の発現を免疫染色にて調べたところ、胚盤胞で見られるのと同じように、ICM様構造に隣接する側で強く発現し、反対側ではほとんど発現しないというパターンが観察されました(Fig. 4A – F)。

また、分化したTEのマーカーであるKrt8の発現も免疫染色で確認したところ、こちらも、胚盤胞で見られるのと同じように、ICM様構造の反対側でのみ検出されていました(Fig. 4G)。

これらの結果から、EPS-Blastoidでは、Polor TEとMural TEが構築されているという結果が導かれます。

なお、Single Cell RNA-seqのデータからも、Polor TEとMural TEの構築という結果が補強されています(Fig. 4H-K)。

さて、胚盤胞様の構造がしっかりと再現されているのなら、気になるのは、さらに発生できるか否かです。

まず、in vitroでEgg-cylinder様の構造に発生できることが示されていました(Fig. 5A & B)。

一番気になるin vitroでの発生についですが、EPS-Blastoidをマウス子宮に移植してやったところ、着床の証である脱落膜形成が確認されました(Fig. 6A-F; 脱落膜形成は母親側のイベント)。胎生期7.5日に相当するステージの脱落膜の特徴も観察されていました(Fig. 6E-F)。

さて、肝心の胎児側について、ここまで子宮側で着床が再現されれば期待が持てるところですが、EPS-Blastoidの発生は維持さていないようでした(Fig. S6A & B)。

まとめると、EPS-Blastoidは脱落膜形成を誘導できるものの、発生はできないという結果になります。

なにが原因で発生が進まなかったのかを調べるために、いくつか実験を行ったところ、ライヘルト膜と呼ばれる基底膜が構築されていないことを突き止めます(Fig 6J)。

ライヘルト膜の形成不全が発生不全の原因だと考えられますね。

Discussion

Li et al.の報告と同じく、前年ながら?安心なことに?仔がとれるまではいきませんでした。

ただ、今回のSozen et al.の報告では、ライヘルト膜の形成不全が発生不全の原因ではないか、というところまで突き止めています。

培養細胞から生物を作るなんて、恐ろしい気もしますが、夢のある研究ですね。

競争が激しすぎて首をつっこむ気は失せてしまったので、続報を待ちたいと思います。