科学論文紹介

An intra-tumoral niche maintains and differentiates stem-like CD8 T cells ~がん浸潤CD8+ T細胞の量は如何にして制御されるのか~

acworksさんによるイラストACからのイラスト

Introduction

がん組織に浸潤したCD8+ T細胞の量は、患者の生存期間や、がん免疫治療に対する応答性を予測する最も優れた指標の1つです。

しかしながら、なぜ、CD8+ T細胞の浸潤が多いがん、少ないがんが存在するのかはよく分かっていません。

1つの推察される理由としては、持続的な抗原暴露によりT細胞が疲弊してしまい、分裂や標的細胞への攻撃能力が失われてしまうというものです。

2018年のノーベル賞で話題となったチェックポイント分子CTLA-4やPD-1の獲得は疲弊状態の特徴とされています。

なるほど、納得のいきそうな理由です。

しかしながら、数十年に及んでT細胞の反応性が保たれる患者がいることや、表現型的には疲弊したT細胞を有しているにも関わらずがんが悪性化しない患者がいるのかは説明できません。

そこで、筆者らは、がんに対するT細胞の反応強度を制御する機構を明らかにするため、患者から切除された癌組織におけるCD8+ T細胞の特徴を調べます(pubmed)。

その結果、がん組織の中には抗原提示細胞がつくる微小環境が存在し、そこに幹細胞様の特徴を持つCD8+ T細胞が存在していることを突き止めました。

Results

まず、筆者らは、患者から外科手術において切除された腎臓がんにおいて、浸潤しているCD8+ T細胞をFACSにより定量しました。

その結果、CD8+ T細胞の浸潤量は、がん組織における細胞の0.002%から20%とかなり幅があり(Fig. 1A)、2.2%を基準に群分けしたところ、基準以下の浸潤量だった患者は、基準以上の患者に比べて4倍近いスピードでがん組織が発達(つまり、再発)していたようです(Fig. 1B; 無増悪生存率)。

続いて、がん浸潤CD8+ T細胞において、チェックポイント分子、共刺激分子、転写因子などの発現をFACSによって調べたところ、TIM3・PD-1・CTLA4・TIGITといったチェックポイント分子を高発現する細胞集団(以下、PD-1+ TIM3+)と、予想外にも、チェックポイント分子の発現が低く、共刺激分子CD28や転写因子TCF1を高発現する幹細胞様の集団(以下、TCF1+ TIM3- CD28+)も検出されました(Fig. 1C & D)。

抗CD3/CD28抗体を共有結合させたビーズを添加してやると、TCF1+ TIM3- CD28+の幹細胞様集団のみ、ビーズからの刺激を受け活発な増殖を見せます(Fig. 1E & F)。

この細胞分裂の際、面白いことに、幹細胞様の集団は、PD-1やTIM3の発現が上昇、TCF1の発現が減少していくという結果が得られます(Fig. 1G & H)。

そこで、2つの細胞集団のT細胞受容体(TCR)を比較したところ、両者のTCRは高度に一致していることが分かります(Fig. 1I & J)

つまり、PD-1+ TIM3+の細胞集団は、TCF1+ TIM3- CD28+の細胞集団が分化して生じた可能性が導かれる訳です。

RNA-seqによる遺伝子発現解析の結果、PD-1+ TIM3+の集団はグランザイムやパーフォリンといった細胞傷害性顆粒の内容物を高発現していることが分かりました(Fig. 2A)。

また、全ゲノムDNAメチル化解析を行ったところ、非感作CD8+ T細胞 ⇒ 幹細胞様TCF1+ TIM3- CD28+ ⇒ 分化PD-1+ TIM3+と脱メチル化が進んでいく結果が得られました(Fig. 2C-D)。

これらのエピゲノム変化は、分化やチェックポイント分子に関わる遺伝子で起きているようです(Fig. 2E)。

ここまでの結果から、幹細胞様集団は増殖、分化集団は細胞障害性と役割分けを持っていること、そしてこの役割分けはエピゲノムにより制御されていることが分かります。

この幹細胞様のCD8+ T細胞というのは、実は、慢性感染状態における患者でも存在することが過去に報告されています。

しかし、lm S. J. et al.の報告(pubmed)やHe R.et al.の報告(pubmed)では、幹細胞様のCD8+ T細胞は、リンパ組織にのみ検出されています。

そこで、がん組織の中にリンパ組織様の微小環境があるのではと推察し、がん組織に浸潤した抗原提示細胞(APC)の量をFACSによって調べました。

その結果、APCの1つである樹状細胞と幹細胞様CD8 +T細胞の数に正の相関があることが特定されます(Fig. 3A & B)。

さらに、免疫染色により局在を調べたところ、TCF1+のCD8+T細胞は、MHCII+であるAPCが凝集した領域にのみ存在することが分かりました(Fig. 3E & F)。

一方で、TCF1-のCD8+T細胞は、がん組織全体に広がって分布していました(Fig. 3E & F)。

つまり、APCが密な領域が、幹細胞様CD8+T細胞のニッチとして機能していると考えられるわけです。

最後にがん組織内のMHCII+の細胞数と外科手術後の予後を比べたところ、 MHCII+の細胞が少ない群では、4倍近いスピードでがん組織が発達していたようです(Fig. 4G; 無増悪生存率)

Discussion

がん組織の中には抗原提示細胞がつくる微小環境が存在し、そこに幹細胞様の特徴を持つCD8+ T細胞が存在していることがきれいに示されていました。

ただ、この研究により、抗原提示細胞がつくる微小環境の有無はどのように制御されているのか、という新たな疑問が生まれてしまいましたね。

TCF1+のCD8+ T細胞集団は、PD-1阻害における癌免疫療法の効果と相関するという報告もあるようなので、抗原提示細胞がつくる微小環境の制御機構が分かれば、癌免疫療法がもっと有用な治療になることでしょう。