科学論文紹介

Prominin2 Drives Ferroptosis Resistance by Stimulating Iron Export ~Prominin 2が細胞にフェロトーシス耐性を付与する~

acworksさんによるイラストACからのイラスト

Intorduction

フェロトーシスは、鉄および活性酸素種(ROS)に依存し、過酸化脂質の蓄積により特徴づけられる制御性細胞死の一種で、グルタチオンによる抗酸化システムの破綻(glutathione peroxidase 4 [GPX4]の抑制など)や、鉄による過剰負荷により誘導されることが知られています。
例えば、GPX4が抑制された状況下では、細胞を細胞外基質から剥離するといった機械的ストレスにより、ROSレベルの上昇を介して、フェロトーシスが惹起されることが知られています。

鉄がROS産生やフェロトーシスの惹起に関与するなら、細胞にとって不要なものなのかといったら、そう簡単な話ではありません。
鉄は、細胞増殖に必須な物質であるので、細胞内の遊離鉄レベルは適正に保たれている必要があるのです。

ところで、がん細胞においては、その種類や状態により細胞内の遊離鉄レベルが異なることが知れており、この違いがフェロトーシス感受性の違いを生み出している可能性が報告されています。
つまり、フェロトーシス耐性(細胞内鉄レベル維持)の機構が解明されれば、新種のがん治療法となる可能性もあります。

そんな中、フェロトーシス耐性の高い(がん)細胞では、フェロトーシスの誘導に先立ってmultivesicular body (MVB)/エキソソームのトラフィッキングにより鉄が排出されることが報告されていたのでメモしておきます(pubmed)

Result

まず、筆者らは、細胞外基質から剥離した条件でも生存できる細胞では、細胞死を抑制する何らかの遺伝子の発現上昇が見られるはずだと推察します。
そこで、不死化乳房上皮細胞(MCF10A)の接着または剥離条件におけるmRNA発現を比較し、発現上昇が見られた候補遺伝子の中で、PROM2(prominin2をコードする遺伝子)に着目しました。
prominin2はフェロトーシス耐性に関わり得る脂質動態や膜構成に関わるとされています。

ウエスタンブロッテイングやqPCRを行ったところ、細胞外基質から剥離後2時間以内に蛋白質とmRNAレベルの大幅な上昇が確認されました(Fig. 1A & B)。
細胞外基質から剥離したことによるprominin2レベルの上昇は乳癌細胞(Hs578t)においても確認されています(Fig. 1B)。
prominin2の機能を調べるためにsiRNAによりprominin2の発現を抑制してやったところ、MCF10AとHs578t細胞の両者において、細胞外基質剥離条件での生存性が大きく低下しました(Fig. 1C)。
この生存性の低下は、フェロトーシスの抑制剤であるferrostatin-1の投与によりレスキューされます(Fig. 1C)。
これらの結果は、細胞外基質剥離に際してprominin2の発現上昇が上手くいかないと、フェロトーシスが誘導されることを示唆します。

続いて、筆者らは、細胞外基質からの剥離ではなく、GPX4の阻害がprominin2発現を上昇させるかを調べます。
MCF10AとHs578tをGPX4阻害剤であるRSL3で処理したところ、同様に、mRNAと蛋白質レベルの上昇が観察されました(Fig. 1D & E)。
一方、別の乳癌細胞MDA-MB-231は、RSL3で処理してもprominin2発現は上昇しません(Fig. 1D & E)。
GPX4阻害はフェロトーシスを誘導するので、RSL3の濃度を振ってフェロトーシスをに対する感受性を調べたところ、MCF10AとHs578tは2.5 µM程度でも細胞死抵抗性を示すのに対し、MDA-MB-231は、0.5µMよりも低い濃度で細胞死が誘導されることが分かりました(Fig. 1F)。
siRNAによりprominin2をknockdownしてやると、MCF10AとHs578tのRSL3に対する感受性が高まり、MDA-MB-231と同レベルの細胞死を示しました(Fig. 2A & B)。
以上の結果から、prominin2の発現がフェロトーシスへ耐性を促進することが分かります。

さて、では、どのようにprominin2フェロトーシス耐性を細胞に付与するのでしょうか。
RSL3投与に際したMCF10A 細胞におけるprominin2の細胞内局在を免疫染色により調べたところ、prominin2は細胞質に点在する様子が観察されました(Fig. 3A & B)。
点在という局在パターンをしめしたことから、細胞内小器官のマーカーで共染色してやったところ、multivesicular bodies (MVBs)のマーカーであるTSG101を共局在する様子が観察されました(Fig. 3A)。
そこで、RSL3投与前後でTSG101陽性の構造の数を比較すると、RSL3投与に際して増加することが分かりました(Fig. 3A)。
siRNAによりprominin2をknockdownしてやると、RSL3を投与してもTSG101陽性の構造は増えなくなることも確認されました (Fig. 3C)。
つまり、prominin2はMVBの形成を促進していると考えられます。
MVBsは細胞質と融合することで、エキソソームとして、Intraluminal vesicles(ILVs)を放出することが知られています。
そこで、エキソソーム放出を低下させるGW4869を添加したところ、MCF10AやHs578t細胞のRSL3に対する感受性が高まることが確認されました(Fig. 4E)。
つまり、エキソソーム放出がMCF10AやHs578t細胞のRSL3に対する耐性(フェロトーシス耐性)に必須な訳です。

ところで、鉄の貯蔵蛋白質であるferritinはエキソソームにより細胞外に放出されることが知られています。
そこで、筆者らは、MVB/エキソソームによりferritinが細胞外に放出されることで、フェロトーシス耐性を獲得すると推察します。
これを検証するために、ferritinとprominin2を免疫染色したところ、RSL3処理後のMCF10AやHs578t細胞において、きれいに共局在する様子が観察されました(Fig. 5A)。
続いて、MCF10AやHs578t細胞内の鉄の濃度を調べたところ、RSL3処理の前後で変化は見られませんでしたが、knockdownによりprominin2もしくはferritinのレベルを低下させるとRSL3処理に伴って鉄濃度が上昇する様子が観察されました(Fig. 6A & B)。
一方、MDA-MB-231細胞では、RSL3処理により細胞内の鉄濃度が上昇しますが、prominin2の発現ベクターを導入すると、鉄濃度の上昇が見られなくなりました。

Discussion

これらの結果をまとめると、prominin2依存で形成されるMVBを介して、鉄が細胞外に放出されることで、フェロトーシス耐性を獲得するという結論になります。

論理展開がとても美しい論文でした。こんなきれいな論文がかけたら、とても気持ちいいでしょうね。