科学論文紹介

MLLT3 governs human haematopoietic stem-cell self-renewal and engraftment ~血液疾患の克服に向けた基礎研究~

mmaruさんによるイラストACからのイラスト

Intorduction

造血幹細胞(haematopoietic stem cell; HSC)は成体では主に骨髄に存在する細胞で、自己複製能と血球系細胞への分化能を有しています。
造血幹細胞さえあれば、血液細胞すべてがまかなわれるため、造血幹細胞移植は、様々な血液疾患の治療法となり得ます。
しかしながら、HLAが一致する(免疫拒絶されない)造血幹細胞がすぐに手に入るとは限らず、移植による血液疾患の治療はなかなか進まないのが現状です。

このドナー不足の解決策としては、造血幹細胞を体外培養で増殖させる系を確立して、すべてのHLAパターンの造血幹細胞を恒久的に維持するというものが挙げられます。
造血幹細胞を体外培養で増殖させるのは困難とされてきましたが、最近になって、さまざまな方法で増殖させることができたという研究報告があがりつつあります。
そんな中、最新の結果として、H3K9acといったヒストンマークを認識するMLLT3が、造血幹細胞と造血前駆細胞(haematopoietic progenitor cell; HPC)の維持の重要な役割を果たしていることが報告されていました(pubmed)。

Result

まず、筆者らは、胎児肝臓のHSPC(HSCとHPC併せてHSPC;胎児では肝臓にもHSPCが存在する)の分化過程で発現が抑制される遺伝子、胎児肝臓のHSPCを5週間培養した際に発現が低下する遺伝子、ES細胞から誘導したHSPCで発現が低い遺伝子を調べます。
その結果、上記の3項目で共通しており、かつ、自己複製に関与しそうものとして12遺伝子を特定しました。
ここからどのように絞ったかは書かれていませんでしたが、その12遺伝子の中からMLLT3に着目して研究を進めていきます(Fig. 1A)。

MLLT3はSuper Elongation Complex(RNA polymerasesによる転写開始をサポートする)の構成要素で、H3K79のジ/トリメチル化転移酵素(転写促進)として知られるDOT1Lと協同的に機能します。
また、MLLT3は、H3K9acもしくはH3K9crを認識するYEASTドメインを介して活性化した転写開始点に局在することも知られています。

次に、HSCの維持にMLLT3が必要なのかを調べるために、shRNAによるノックダウン実験を行ないました。
胎児肝臓のHSPCにshRNA/コントロールベクターを導入し、30日間培養の培養を経てFACSを行ったところ、shRNA導入群でのみ造血幹細胞の表面抗原であるCD34陽性の細胞が検出されなくなりました(Fig. 1B & C)。
さらに、shRNA/コントロールベクターを導入したHPSCを免疫不全NSGマウス(NOD/SCID/IL2rgKO)に移植したところ、コントロール群でのみ、多系列の血液細胞(骨髄系・リンパ系)の再構築が観察されました(Fig. 1D & E)。

一方、レンチウイルスベクターを用いた過剰発現により、培養下HPSCのMLLT3レベルを生理条件下に保ってやると、培養6週間時点で、コントロールと比較して78倍のCD34陽性細胞が検出されました(Fig. 1F & G)。
なお、さらに詳細な実験から、培養条件下におけるMLLT3レベルの維持は、増殖活性、分化抑制に影響することなく、生存性を高めることが分かります(Extended Fig. 3)。

さて、MLLT3がHSCの維持に必要ということは分かりましたが、HPSCの性能にはどうでしょうか。
この疑問を検証するため、レンチウイルスベクター導入・非導入HPSCを免疫不全NSGマウスに移植したところ、導入群は、非導入群に比べて、長期間・高レベルでマウス骨髄に生着できることが確認されました。
また、マウス骨髄に生着したHPSCを取り出し、再度、別の免疫不全NSGマウスに移植たところ、レンチウイルスベクター導入群のみ二次移植での定着が観察されました(Extended Fig. 4N & O; HPSCの機能評価は2次移植まで行うのが一般的)。

ここからはメカニズム解析に入ります。

MLLT3がどのようにHSCの幹細胞性の維持しているのかを調べるために、胎児肝臓のHSPCに対して、ChiP-Seqを行ったところ、染色体上の1579箇所での結合が認められ、転写開始点から5kb下流以内に強く局在することが分かりました(Fig. 2A)。
MLLT3が結合している遺伝子は発現活性が高く(Fig. 2B)、転写活性化マークであるH3K79me2や、RNA polymerase II(Pol II)の強い局在も確認されました(Fig. 2C)
どのような遺伝子に結合しているの確認するために、Gene Ontology解析を行ったところ、転写制御、ヌクレオソーム構成、免疫系の発達、造血、転写に関わる遺伝子が上がってきていました(Fig. 2D)。
これらの結果から、MLLT3がH3K79me2やPol II活性に影響することで、種々の遺伝子を制御しているの可能性が示唆されます。

さらに、MLLT3過剰発現が培養下HPSCにどのような影響を与えるのかを調べるために、4週間の培養後にRNA seqを行いました。
その結果、コントロールと比較してMLLT3過剰発現群では、541の遺伝子での発現向上(うち67遺伝子にMLLT3が直接結合)、717の遺伝子での発現低下(うち74遺伝子にMLLT3が直接結合)が観察されました(Fig. 3A)。
転写、解糖系、HSC転写因子、HSC表面蛋白質といった遺伝子で発現向上が見られ、ヌクレオソーム構築、免疫反応、アポトーシスに関する遺伝子で発現低下がみられたようです(Fig. 3B)。
MLLT3が培養中のHSPCにおけるHSC遺伝子の発現を保護していることが推察されます。

続いて、MLLT3過剰発現がH3K79me2を介してHSC遺伝子の発現向上に効いているのかを、H3K79me2のChip-Seqにより調べました。
その結果、過剰発現群でのみ、MLLT3が結合する造血制御に関わる遺伝子におけるH3K79me2の上昇が観察されました(Fig. 3f)。

最後に、臍帯血中のHSPCでもMLLT3の過剰発現が有効かを調べたところ、胎児肝臓のHSPCと同じように、培養下での維持能、移植に際した定着・分化能の向上が観察されました(Fig. 4)。

Discussion

臍帯血のHSCは、HLAの不一致がある程度許容されることが知られている一方、極端に採取できる数が少ないために移植への使用には制限がありますが、培養で増やすことができれば、その実用性は一気に高まります。
血液病が克服される未来はそう遠くないのかもしれませんね。