科学論文紹介

Exon-Mediated Activation of Transcription Starts ~エキソンがエンハンサーとして機能する?~

buraridaさんによるイラストACからのイラスト

Intorduction

「エキソンがエンハンサーとして機能する(exon-mediated activation of transcription starts; EMATS)」という、とても興味深い現象が報告されていたのでメモ(pubmed)。

哺乳類の遺伝子にはexonとintronが介在しており、遺伝子が転写される際はexonとintronがそのままコピーされたmRNA前駆体として産生されてきます。
産生されたmRNA前駆体は、スプライシングと呼ばれる過程によりintronが除かれた成熟mRNAとなり、核外に輸送され、蛋白質の鋳型として機能します。

mRNA前駆体のスプライシングは、その合成(転写)から数秒から数分以内という極めて短い間隔で生じるため、転写とスプライシングには機能的な関連がある可能性が示唆されています。
実際、Anvar et al.の報告(pubmed)でも、転写の開始とのスプライシングが協調的に機能することが報告されています。
しかしながら、スプライシングによる転写開始点(TSS)や転写活性への影響を網羅的に調べた例はなく、そこに踏み込んだ報告になります。

Result

スプライシングとTSSの関連性を調べるために、筆者らは、まず、マウスとラットの転写産物を比較します。
進化の過程で、マウスにのみ獲得されたexonや、ラットもしくはマウスでのみ失われたexonが存在する(Fig. 1A)ので、そういったexonスプライシングの違いが、TSSや転写活性に影響するのかを調べたわけです。
ちなみに、筆者らの過去の報告(pubmed)によると、進化の過程で獲得されるexonは遺伝子の5’ UTRに位置することが多く、選択的スプライシングや組織特異的なスプライシングを受けやすいようです。

マウスとラットの転写産物を比較した結果、exon獲得により、その遺伝子の転写活性が高まっていることが分かります(Fig. 1B)。
さらに、exonを獲得した遺伝子をTSSの数により分類したところ、複数のTSSを持つ遺伝子では転写活性が高まっていたものの、TSSを1つしかもたない遺伝子では、転写活性に変化はなかったようです(Fig. 1C)
ここで、マウスのRNA-seqのデータを確認したところ、マウス特異的なexonをもつ遺伝子は、そうでない遺伝子と比べて、多くのTSSをもつ傾向が見つかります(Fig. S1B & C)
なお、ラット特異的なexonをもつ遺伝子でも同じ傾向が観察されています(Fig. S1E)。
これらの結果から、進化の過程におけるexon獲得は、TSSの獲得と転写活性の向上に関連していそうだと推察されます。

TSSの獲得についてもう少し詳細に調べたところ、獲得されたexonから数kbp上流以内にTSSが存在する傾向があることが分かります(Fig. 2D)。
そこで、スプライスレベルとTSS選択の関係を調べたところ、最も近傍上流のTSSからの転写の場合に新たなexonとして取り込まれやすいことが分かりました(Fig. 2E)。
さらに、近傍上流のTSSからの転写活性を組織間で比較したところ、新たなexonを取り込む組織でのみ、転写活性が高まっていることが確認されました(Fig. 2F)。
これらの結果は、スプライシングが近傍TSSからの転写を促進している可能性を示唆します。

続いて、スプライシングが近傍の転写に影響するのかを直接的に評価するために、morpholino antisense nucleotideやCRISPR/Cas9を用いて、スプライシングパターンを人為的に操作して、TSSからの転写が影響を受けるのかを調べました(Fig.3 & 4)。
これらの実験(とても綺麗な実験デザインでした)から、確かに、スプライシングが近傍TSSの転写を促進していることが確認されます。

さて、では、どのようにスプライシングが近傍TSSの転写を促進するのでしょうか。
この疑問に答えるために、RNA結合タンパク質をknockdownし、TSSの使用率に影響するかを調べました。
その結果、スプライス因子やエキソン接合部(EJC)複合体をknockdownした場合に、最も多くのTSSが影響を受けることが分かりました(Fig. 6A)。
そこで、TSSの使用率に影響する上位10のスプライス因子(Fig. 6B)について、STRINGデータベースから相互作用するタンパク質を調べたところ、RNA polymerase IIの構成因子や基本転写因子などと相互作用するようです(Fig. 6C)。

これらの結果をまとめると、スプライシングによりRNA polymerase IIや基本転写因子が上流近傍のTSSにリクルートされ、そのTSSからの転写が促進されるという結論が導かれます。
まるで、exonがエンハンサーのように転写を促進していることから、筆者らはこの現象をExon-Mediated Activation of Transcription Starts (EMATS)と名付けています。

Fig.1において進化の過程で獲得されたexonを対象にして実験を進めていましたが、EMATSは進化の過程におけるexon獲得にポジティブフィードバックループを介して有利に機能すると考えられます。
つまり、新たなexonを含む転写がその近傍上流のTSSからの転写を促進⇒さらに、新たなexonを含む転写が起こる⇒近傍上流のTSSからの転写を促進⇒さらに、新たなexonを含む転写が起こる⇒ … といった具合ですね。

Discussion

エキソンがエンハンサーのように機能するのは驚きです。
最近は、プロモーターがエンハンサーとしても機能する報告などもあるようで、エンハンサーの定義を刷新する必要が出てきているのかもしれません。
こうやって、教科書は書き換えられていくのですね。