科学論文紹介

A Translation-Activating Function of MIWI/piRNA during Mouse Spermiogenesis ~お前RNA分解だけじゃないのか?ブラック企業にこき使われるMIWI/piRNA~

マウスの精子

Intorduction

精子形成の後期においてmRNAを分解する役割をもつMIWI/piRNAが、翻訳促進にも機能するという驚きの報告が上がっていました(pubmed)。

精子形成(spermatogenesis)は、大きく減数分裂と精子伸長(spermiogensis)の過程に分かれており、後者の精子伸長過程では、クロマチンが高度に凝集し、転写が抑制さていくことが知られています。
そのため、精子伸長後期に必要な蛋白質は、精子伸長前期にあらかじめ転写され、必要になるまで翻訳が抑制された状態のmRNAに依存することになります。
この転写と翻訳の非共役という現象は、伸長精子に特有の遺伝子制御機構として知られていますが、未だその機構は謎に包まれています。

ここで、すこし話が変わりますが、進化的に保存されたPIWIファミリーとばれる一群のRNA結合タンパク質は、配偶子形成に必須の役割を担うことが知られています。
PIWI(マウスではMIWI、ヒトではHIWI)はpiRNA (PIWI-interacting RNA)と呼ばれる30塩基程の小分子RNAと結合し、piRNAと相補的のあるレトロトランスポゾンRNAにリクルートされます。
PIWIはスライサー活性を有しており、piRNAにより認識したレトロトランスポゾンRNAを切断・不活化することで、生殖細胞のゲノムをトランスポゾンから守る役割を担っています。
また、PIWI/piRNAは、レトロトランスポゾンRNAのみならず、mRNAを分解する役割を担うことも多数報告されています。
PIWI/piRNAについてもっと詳細に知りたい方は、ライフサイエンス領域融合レビュー(link)を参照ください。

Result

ということで、トランスポゾンRNAにせよmRNAにせよ、PIWI/piRNAの機能はRNAの不活化だと考えられています。
しかし、筆者らが、精母細胞由来のGC-2spd(ts)細胞でpiRNA:mRNAのペアを解析していたところ、驚くべきことに、5つの標的mRNA (Plectin, Agfg1, Tbpl1, Cnot4, Atg12)では、むしろ翻訳が亢進していることを発見します(Fig. 1A & B; luciferaseレポーターを用いて発現レベルを評価; 以下、レポーターを用いた実験は全てGC-2spd(ts)細胞を用いた実験)。
mRNAを分解するなら、翻訳レベルは低下するはずなので、不思議ですね。
ちなみに、mRNAの量は変化しないようです(Fig. 1C)。

そこで、MIWI/piRNA(マススの細胞を使っているのでMIVI)が翻訳亢進に機能しているのかを調べていきます。
まず、mRNAもしくはpiRNAの結合サイトに変異を加えて、両者の結合を阻害したところ、レポーターの発現亢進は全く見られなくなることが分かります(Fig. 1B)。
また、siRNAによりMIWIをknockdownした場合もレポーターの発現亢進が見られなくなりました(Fig. 2B)。
逆に、MIWIを過剰発現したところ、レポーターの発現がさらに高まるという結果が得られました(Fig. 2C)。
つまり、MIWI/piRNAがmRNAと結合することが、発現亢進に必須であると結論づけられます。

では、どのような機構で発現が亢進するのでしょうか。
この疑問に答えるために、酵母ツーハイブリッドシステムを用いて、MIWIと結合するタンパク質を探索しました。
すると、転写に関係しそうな因子として、eIF3fが挙がってきました(Table S1)。
マウス精巣のタンパク抽出液を持ちいたco-IPによりin vivoでも両者が複合体を作っていること(Fig. 3B)、また、GSTタグ付きのリコンビナントタンパク質を用いたGSTプルダウンにより両者が直接結合していること(Fig. 3C)が確認されました。
この結合は、mRNAの有無やpiRNA有無でほとんど影響を受けないようです(Fig. 3B & Fig. S2E)。

なるほど、MIWIが転写因子と結合しているから、転写が促進される訳ですね。いや、でも、ほとんどのmRNAが分解を受けるなか、一部のmRNAが転写促進されるのは何故なのでしょうか。
ここで筆者らは、mRNAの3’ UTR (untranslated region)に目を付けます。
mRNAの3’UTRは無意味な飾りではなく、mRNA代謝(分解や安定化)を制御していることが知られています。
詳細に5つのmRNAの3’UTRの配列を調べたところ、この5つは共通してARE(AU-rich element)と呼ばれる構造を持っていることが分かります(Fig. S3A)。
この、AREに変異をいれたところ、MIWI/piRNAによる発現亢進が見られなくなります(Fig. 4A)。
また、MIWI/piRNAにより認識されるGrk4 mRNAの3’ UTRにAREを挿入してやったところ、レポーターの発現が亢進するという結果が得られます(Fig. 4B)。
つまり、3’ UTRにAREが含まれていれば、発現亢進に十分という結論ですね。
ちなみに、AREが挿入される位置は大切なようで、piRNAの結合サイトから550nt/950nt/1350nt/1750ntで比較したところ、1350ntの場合にのみ発現亢進が観察されていました (Fig. 4B)。

さて、mRNA 3’UTRのAREは精子形成に必須とされるHuRと結合することが知られて言います。
Nguyen-Chi et al. (pubmed)の報告によると、HuRはAREを持つmRNAが、クロマトイド小体(雄性生殖細胞の細胞質に存在する構造体で、mRNAの貯蔵の場とされている)からポリソームへ輸送される過程に関連しているとされています。
そこで、マウス精巣の蛋白抽出液を持ちいて、HuRに対してIPをおこなったところ、Plectin, Agfg1, Tbpl1, Cnot4, Atg12のmRNAが落ちてくることが確認されました(Fig. 4C)。
また、siRNAにおいて、HuRをKnockdownすると、レポーターのMIWI/piRNAによる発現亢進が見られなくなります(Fig. 4D)。
これらの結果から、HuRがMIWI/piRNAによる転写促進に機能していることが分かります。

ここまでをまとめると、AREを持っているmRNAがMIWI/piRNAが翻訳促進を受けるという訳ですね。
次に、筆者らは、精子形成のどのステップで、MIWI/piRNAのmRNA翻訳促進機構が機能するのかを調べます。
マウスの精母細胞・円形精子細胞・伸長精子細胞において、MIWIに対してIPを行ったところ、eIF3fとHuRは円形精子細胞のみで強く検出されました(Fig. 5E)。
対照的に、脱アデニル化酵素CAF1(MIWI/piRNAと複合体を作ってmRNAの分解にはたらくとされている)は、身長精子細胞でのみ強く検出されました(Fig. 5E)。
つまり、MIWIは精子伸長の過程で、翻訳促進を担う複合体から、mRNA分解を担う複合体に置き換わっていくことが示唆されます。

さて、今までの実験では、GC-2spd(ts)細胞で見つかった5つのmRNAに注目して進めてきましたが、果たして、MIWI/piRNAの翻訳促進というのは一般的な現象なのでしょうか。
これを調べるために、筆者らは、野生型マウスとMiwi欠損マウスの生後24日(精子伸長のstep4; 円形精子細胞の中期)の生殖細胞における転写活性をリボソームフットプリンティング法により比較します。
Miwi欠損マウスは、step4で精子の発生が停止するので、生殖細胞の集団が一致するぎりぎりを攻めた訳ですね(ただ、野生型とMiwi欠損の生後24日までなら細胞集団が一致しているとはいえ、発生が停止するほどの異常が出ている訳なので、結果の解釈には気を付ける必要があります)。
RNA-seqで規準化したリボソームフットプリンティングの比較の結果、Miwi欠損マウスでは3959のmRNAで転写率が減少していることが分かります(Fig. 6A)。
MIWI/HuRの標的mRNAに絞ると、より顕著な翻訳率の減少が確認され(Fig. 6B)、1501のMIWI/HuRの標的mRNAのうち、601のmRNAで翻訳率の減少が確認されたようです(Fig. 6C)。

Discussion

MIWI/piRNAはRNAの分解だけでなく、転写促進にも機能するよ、という非常に興味深い報告でした。トランスポゾンからゲノムを守り、不必要なmRNAを分解し、さらに、翻訳の促進まで担うとは、なんてマルチな働きをするやつなんでしょうか。伸長精子細胞は、とんでもないブラック企業に違いありません。