科学論文紹介

Excluding Oct4 from Yamanaka Cocktail Unleashes the Developmental Potential of iPSCs ~山中4因子の1つOct4を除くとiPS細胞の質が上がったよという驚きの報告~

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山中4因子(Oct4, Sox2, Klf4, cMyc: OSKM)による体細胞のリプログラミングが2003年に報告されて以降、これら4因子のリプログラミングにおける役割の解明といったiPS細胞の基礎研究が盛んに行われてきました。Oct4のみがファミリーの転写因子で置き換えられない報告(Oct1やOct6だとダメ)、また、Oct4単独でリプログラミングできるという報告などから、Oct4はiPS細胞の誘導に重要な因子と考えられています。

そんな中、Oct4を除いたSKMのみでリプログラミングに十分であり、かつ、OKSMよりもiPS細胞の質が高まるという結果が報告されました。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31708402

まず、筆者らはiPS細胞誘導に広く使われているtetO-OSKMカセット(dox誘導でOKSMを発現する; レンチウイルスベクターに搭載)からOct4を除いたtetO-SKMカセットを作製しました(Fig. 1C)。そして、Oct4-EGFP レポーターマウスの胎児繊維芽細胞に対してtetO-KSMを導入したところ、驚いたことに、Oct4を除いているにもかかわらず、GFP陽性のコロニーの出現が観察されました(Fig. 1D)。SKM-iPS細胞は多能性マーカーのSSEA1やNanogを発現しており(Fig. S1A)、Oct4やNanogのプロモーターにおける脱メチル化(転写活性化)も確認されました(Fig. 1F)。続いて、OSKMとSKMによるリプログラミングを比較します。まず、リプログラミングの速度に関して、OSKMではdox誘導3日目でGFP陽性コロニーが出現するのに対し、SKMでは2日遅れの5日目にGFP陽性コロニーが出現し始めました(Fig. 1K)。また、リプログラミングの効率に関して、dox誘導6-8日目で比較したところ、KSMはOKSMの30%程度の効率であることが分かりました(Fig. 1K)。必要なdoxの量については、OSKMだと10ng/mLで十分なのに対し、KSMでは1000ng/mLとかなりの量を入れる必要があるようです(Fig. 2A)。ここまでの結果だと、OKSMの方がやっぱりよさそうな感じがしますね。

次に、筆者らは、多能性幹細胞の最も厳格なテストである、4倍体補完(tetraploid [4N] complementation)アッセイを行います (Fig. 3A)。2細胞期胚での細胞融合などによりつくられる4倍体の胚は、将来胎児になる細胞を作ることができず、胚体外組織になる細胞のみを作ります。そこで、4倍体の胚に(質の高い)多能性幹細胞を入れてやると、全ての細胞が多能性幹細胞由来となった仔が生まれてくる(以下、4N-on)という原理です。実は、OKSMで作られたiPS細胞はそれほど、4倍体補完アッセイの成績が良くないことが知られています。実際、筆者らが行った場合も、3分の5のOSKM-iPS細胞ラインでのみ4N-onが認められました(Fig. 3C)。一方、SKM-iPS細胞の場合では、驚いたことに、5分の5のラインで4N-onが認められました(Fig. 3B)。そして、OSKM-iPS細胞を入れた胚のうち、2.3%±1.4%が仔になるのに対し、SKM-iPS細胞では44.1%±9.1%が仔になるという驚くべき効率向上が示されていました(Fig. 3D)。また、OSKM-iPS細胞では、哺乳期間を生き延びる仔はゼロだったのに対し、SKM-iPS細胞では、49.5%が哺乳期間(なぜか2日間のデータ)を生き延び、34%がadultに成熟できたようです(Fig. 3D)。SKM-iPS細胞由来のadultマウスは健康で次世代も作れたようです(Fig. 3E & F)。

さて、Oct4が不可欠だという報告が多数ある中、なぜ、Oct4を抜いても問題ない(むしろ、質が向上)という結果が得られたのでしょうか。筆者らは、その違いは、ウイルスベクターの違いではないかと考えます。今回、筆者らが使用したのは、レンチウイルスベクターですが、レトロウイルスベクターでもiPS細胞は誘導できます。ちなみに、山中先生が2006年の論文で用いたのはレトロウイルスベクターです。これらのウイルスベクターについては、https://researchmap.jp/jo97he5vf-17709/が分かりやすいです。少しだけ下記に引用します。

実は、レトロウイルスと呼ばれるウイルスのグループは、更に細かく「アルファレトロウイルス」「ベータレトロウイルス」「ガンマレトロウイルス」などいくつかのグループに分かれていて、そのうちの一つが「レンチウイルス」のグループです。そのため、「ペンギンは鳥である」のと同様に、「レンチウイルスはレトロウイルス」なのです。
しかし、ヒトやマウスなど哺乳類の細胞へ遺伝子を導入するのに用いている時、「レトロウイルス」と表記されている場合は、レトロウイルスの中でも「ガンマレトロウイルス」を使っている場合が多く、レンチウイルスを使っている時にはたいてい「レンチウイルス」と表記されています。元々、哺乳類の細胞への遺伝子導入に使うレトロウイルスと言ったら、ガンマレトロウイルスが普通だったところへ、レンチウイルスも使われるようになったので、「いやいや、今までよく使っていたウイルスとは別のやつなんですよ」ということを示すために、「レンチウイルス」と表記するようにしたのでしょう。
https://researchmap.jp/jo97he5vf-17709/より引用

それで、実験についてですが、筆者らはmCherryを搭載したレトロウイルス pMX ベクターを導入した胎児繊維芽細胞を準備し、OSKMもしくは、SKMによりリプログラミングを行います。その結果、どちらの条件においても、誘導2日目にはmCherryのシグナルが消失することが分かります(Fig. 4A)。つまり、レトロウイルスベクターで導入された因子は、リプログラミングの初期に発現が抑制されてしまうという結果です。

ちなみに、レンチウイルスベクターでは発現が抑制されるかについて調べたデータは何故か示されておらず、言及もされていないです。レトロウイルスベクターとレンチウイルスベクターで差がでるのは何故なのかよく分からないですね。あと、なぜレトロウイルスベクターによるiPS細胞では、Oct4が必須なのかもよく分からないですね。

気を取り直してデータに戻ります。さて、Oct4を外から入れる必要がないということが分かりましたが、リプログラミングの過程で、内在性のOct4が発現することは必須のイベントです。そこで、内在性のOct4がどのように発現してくるかを調べるために、3つの候補Nr5a2/Nanog/Sall4に対してKnockdown (KD)実験を行います。その結果、NanogとSall4のKDにおいて、OSKM-iPS細胞には何の影響もないのに対し、SKM-iPS細胞のコロニーが激減するという結果が得られました(Fig. 5G)。また、免疫染色の結果、SKMによるリプログラミングでは、Oct4の前にNanogの発現が上昇することが分かります(Fig. S5A)。つまり、SKMリプログラミングでは、NanogやSall4が最初に第一波として発現が上昇し、続いて、第二波として、Oct4の発現が上昇するようです。

続いて、OSKMとSKMによるリプログラミングの過程で、遺伝子発現がどのように変化していくのかを調べます。主成分分析により、データ次元を圧縮して可視化(遺伝子は2万以上あるが、2万次元のデータを人が理解するのは無理なので、次元圧縮して解析するのが普通)したところ、OSKMによるリプログラミングでは、すこし寄り道しながら多能性幹細胞の状態に向かうのに対し、SKMによるリプログラミングでは、より直接、多能性幹細胞の状態に向かっていることが分かります(Fig. 6A)。Oct4があることで、不必要な遺伝子の発現まで誘導されてしまうために、寄り道したようなリプログラミングになるようです(Fig. 6B-F)。

さて、最後に、SKMで作られるiPS細胞の質が良くなる(4倍体補完アッセイの成績がよい)のはなぜかを調べます。まず、SKM-iPS細胞とOSKM-iPS細胞の遺伝子発現を比較しますが(実際には4N-onと4N-offで比較)、ほとんど差は見られませんでした(Fig. 7B)。そこで、iPS細胞の分化に関わるエピジェネティックスに差があるのではないかと予測し、DNAメチル化レベルを調べてやります。すると、いくつかのインプリメント遺伝子のメチル化が失われていることが分かりました(Fig. 7C)。つまり、OSKM条件では無駄な寄り道のせいで、エピジェネティックが少しおかしくなってしまうという結果です。

ちょっとデータが不十分だなと感じるところもありましたが、Oct4が必須という定説を覆す非常におもしろい報告でした。常識や前提を疑うことの重要性を再認識させられますね。