科学論文紹介

Cooking shapes the structure and function of the gut microbiome ~生と加熱調理はどっちがダイエットに向いているのか~

toraemonさんによる写真ACからの写真

食事が腸内細菌叢の構成に影響を与えるというのはよく聞く話ですが、加熱調理による腸内細菌への影響はまだ理解が進んでいないところであります。これまでに、加熱された炭水化物は回腸でしっかりと消化されるようになり、大腸(腸内細菌が最も多く存在)に届く量が減ること。また、調理によって食物に含まれる抗菌物質が分解されることなどが報告されていました。そして、今回、生と加熱調理では腸内細菌叢が変化すること、さらに、宿主の体重にまで関わることが報告されました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31570867

まず、マウスに生の肉と調理した肉を与えて、腸内細菌叢の構成を調べます。しかし、動物性食物では、生と調理の間に特に変化は見られませんでした(Fig. 1B-D)。一方で、生の芋と調理した芋を与えた場合、両者で明確な差が見られました(Fig. 1B, D & E)。生の芋を与えられた群は、調理された芋を与えられた群に比べて、腸内細菌のα多様性(下記参照)が低下しているようです(Fig. 1D & F-H)。

種多様性とは、種そのものの多さであり「断面に現れる枝先」のすべてである。種多様性には、多様性を評価するためのαからγまでの3つの観点がある。
– α多様性とは、ある1つの環境での種多様性である。
– β多様性とは、異なる環境間の種多様性である。
– γ多様性とは、対象とするすべての環境での種多様性である。
https://lab.mykinso.com/chisiki/biodiversity/より引用

加熱調理は、澱粉のゲル化によりアミラーゼによる分解を受けやすくし、小腸での吸収を促進する効果があります。そこで、この消化しやすさが影響しているのかを調べるために、易消化性・難消化性の澱粉を含んだ餌を準備し、それぞれをマウスに与えます。その結果、加熱調理と生で見られた腸内細菌叢のパターンがそれぞれ再現されることが分かりました(Fig. 2C-E)。ちなみに、易消化性澱粉餌の群は、餌の消費量が少なかったにも関わらず、難消化性澱粉餌の群と体重や脂肪レベルは差がありませんでした(Fig. 2A & B)。易消化性澱粉餌の群は、食べる量が少ないにも関わらず、痩せなかったのですね。

また、加熱調理は、抗菌物質といった澱粉以外のものにも影響を与えます。そこで、筆者らは糞に含まれる細菌を回収し、PI染色により細菌細胞膜へのダメージを、SYBR Green I染色により細菌活性の指標となる核酸含有量を評価しました。その結果、生の芋を与えられた群は、調理した芋を与えられた群に比べて、細胞膜のダメージが高く、活性も低いことが分かります(Fig. 3B-D)。つまり、生の植物性食物は腸内細菌にとってはダメージが大きいという結果になります。

さらに、腸内細菌叢の変化が、宿主のエネルギーバランスに影響するかを評価するために、生の芋、加熱調理した芋を与えられたマウスの腸内細菌をそれぞれ無菌マウスに移植してやります。その結果、生の芋の腸内細菌レシピエント群は、加熱芋のレシピエント群に比べて、、糞内に残こるエネルギーが多くなる(消化・吸収しきれていない?)にも関わらず、体重増加率が高くなっていました(Fig. 4C & D)。この一見すると矛盾した結果から、加熱芋群の腸内細菌がより活発にエネルギーを消費しているのではないかと考察できます。

続いて、ここまでの結果はマウスで得られたものなので、人でも同じような影響があるかを調べます。生の野菜もしくは加熱した野菜のどちらかを食べるように23日間の介入実験を行います。その結果、生の野菜を食べた群は、加熱した野菜の群に比べて、腸内細菌のβ多様性の減少率が高くなるというデータが得られます。人でも生食と加熱食は腸内細菌叢に差を生むようです。

まとめると、生の植物性食物は、消化性が悪いために短期的には瘦せる効果がありそうです。しかしながら、腸内細菌にダメージを与え、その多様性を低下させてしまいます。その結果、同じ量を食べても宿主のエネルギーの取り込みが効率的になり体重増加につながってしまいます。腸内細菌叢の多様性が失われることは、体重の増減以外にも影響し得ますし、生の野菜ばかり食べるの控えた方がよさそうです。もちろん、加熱調理によりビタミンなどの栄養が壊れてしまうため、生の野菜にもメリットは多いです。そうなると、健康な食事のためには、食品の種類だけでなく調理法にも気を配っていく必要がありそうです。

ところで、加熱調理しての食事は人に特有のものです。進化の過程で人の系統で劇的に腸内細菌叢が変化するのは、人が手に入れた加熱調理という技術が関係しているのかもしれません。