科学論文紹介

Commensal viruses maintain intestinal intraepithelial lymphocytes via noncanonical RIG-I signaling ~腸内細菌だけでなく腸内ウイルスも大事だぜというお話~

toraemonさんによる写真ACからの写真

最近、テレビでもよく取り上げられる腸内細菌ですが、宿主の免疫システムとの関連が知られており、精力的に研究が進められています。しかしながら、腸内ウイルスについてはあまり研究が進んでいないのが現状です。そんな中、腸内ウイルスが腸管上皮細胞間リンパ球(IELs)の維持に必要だということが報告されました。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31636462

まず、腸内ウイルスが腸内免疫系に効いているかを調べるために、抗ウイルスカクテル(antiviral cocktail: AVC)をマウスに投与したところ、小腸・大腸においてIELsの減少が観察されました(Fig. 1A)。この減少は小腸・大腸特異的で、肝臓や脾臓、粘膜固有層、パイエル板、腸間膜リンパ節ではIELsは減少しないようです(Fig. 1A)。

さて、ウイルス粒子を認識する受容体には、Toll-like receptorやRIG-I-like receptor、cyclic GMP-AMP synthaseなどがあり、それぞれ、TRIF、MAVS、STINGといった抗ウイルス作用をもつ蛋白質の発現を誘導します。そこで、TRIF、MAVS、STINGの欠損マウスをそれぞれ作製したところ、Mavs KOマウスのみでIELsの減少が観察されました(Fig. 2A & B)。さらに、RIG-I-like receptor ファミリーに属するRIG-I(Ddx58)とMDA5を欠損するマウスをそれぞれ作製したところ、Ddx58 KOマウスでのみIELsの減少が観察されました(Fig. 2C & D)。Ddx58 KOマウスにAVCを投与してもさらなる、IELsの減少は見られません (Fig. 2K)。つまり、Ddx58 KOにより、大雑把ではありますが、AVC投与と同じ状態になっている訳です。また、RIG-Iのリガンド(PEI)により包んだpoly (I:C)を腹腔内に投与したところ、AVC投与野生型マウスではIELsの減少がレスキューされるのに対し、AVC投与 Ddx58 KOマウスではIELsの減少はレスキューされませんでした。以上の結果から、RIG-Iを介して腸内ウイルスが認識されていると結論づけられます。

さらに、どの細胞のRIG-Iを介したシグナル伝達が、IELsの維持に効いているのかを調べるために、様々な実験を行います(Fig. 3)。一番クリティカルな実験だけ説明すると、IELsで特異的にDdx58をKOしても、IELsの数は減少しない一方(Fig. 3F)、マクロファージやdendritic cell (DC)で特異的にDdx58をKOするとIELsの数が減少することが分かりました。つまり、マクロファージやDC (併せてAPC: Antigen Presenting Cell)におけるRIG-IシグナルがIELsの維持に必要という結論になります。

ところで、AVC投与やDdx58 KOにより腸内細菌のバランスが崩れてしまい、それがIELsの減少を惹き起こしている可能性があります。実際、腸内細菌叢を調べると、AVC投与やDdx58 KOにより細菌叢のバランスが崩れていました(Fig. 4A-J)。ただ野生型マウスとDdx58 KOマウスを同居させて、腸内細菌叢をシンクロさせても、なお、Ddx58 KOにおいてIELsの数が減少していました(Fig 4F-L)。このことから、腸内細菌叢のバランスが崩れた効果による影響を否定しきれるわけではありませんが、腸内ウイルスからのRIG-Iへの刺激が入らないことでIELsの数が減少していると言えます。

さて、このRIG-IシグナルがどのようにIELsの維持に効いているかですが、まず、胸腺における前駆細胞をFACSで解析したところ、野生型マウスとMavs KOマウスでその数に差がないことが分かりました(Fig. 5A)。続いて、Annexin-V stainingとBrdU取り込みを調べたところ、野生型マウスと比べて、Ddx58 KOマウスのIELsは、高いアポトーシス率と低い増殖率を示すことが分かりました。つまり、腸内ウイルスからのRIG-I刺激は、前駆細胞からIELsへの分化ではなく、IELsの増殖と生存に効いていることになります。

さらに解析を進め、Ddx58 KOマウスではAPCにおけるIL-15が減少することを突き止めます(Fig.6C)。また、AAVを使った遺伝子導入により、IL-15を強制的に発現してやると、Ddx58 KOマウスで見られたIELs数の減少がレスキューされました。つまり、RIG-IシグナルはIL-15の産生へとつながるわけです。ここで、IL-15はNF-kBのターゲット遺伝子であることが知れているのですが、Ddx58 KOマウスにおけるNF-kBによるサイトカイン産生は正常に保たれているようでした(Sup.Fig. 7E & F)。RIG-I-MAVSはNF-kB以外にもIRF-1を活性化すること、そして、IRF-1はIL-15の転写因子であることが知られています。そこで、Irf1 KOマウスを作製してやったところ、見事にIL-15のレベルが低下し(Fig.7A & B)、IELsの数も減少していました(Fig.7E & F)。まとめると、「腸内ウイルス⇒RIG-1⇒MAVS⇒IFR-1⇒IL-15⇒IELsの維持」という流れになります。

IELsは宿主の感染防御や上皮の恒常性維持に効いていることが知られています。そこで、最後に、腸内ウイルスの欠如が腸管の炎症にどうのように影響を及ぼすのかを調べました。AVC投与・非投与のマウスにDDSで炎症を惹起したところ、AVC投与群では炎症がよりひどくなることが分かります(Fig. 8A-D)。また、AAVによりIL-15を強制発現してやると、AVC投与群と非投与群の差が見られなくなります。これまでのすべての結果をまとめて、腸内ウイルスは、腸管の恒常性に効いていると結論づけられます。

まぁ腸内ウイルスも忘れるなよという報告ですね。