科学論文紹介

Phase separation of YAP reorganizes genome topology for long-term YAP target gene expression. ~YAPの機能を制御する液-液相分離~

acworksさんによるイラストACからのイラスト

Yes-associated protein (YAP)の相分離に関するかなりエレガントな報告があったのでメモ。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31792379

YAPはTEADなどの転写因子に結合する転写補助活性化因子で、その核内への局在はHippo pathwayにより制御されます(mechano-chemical ストレスに応答するpathway)。
例えば、細胞に細胞密度の密度の上昇といったストレスがかかると、MST1/2のリン酸化、活性化したMST 1/2がさらにLATS1/2をリン酸化、活性化したLATS1/2がさらにYAPのSer127をリン酸というカスケードが流れます。Ser127がリン酸化されたYAPは細胞質アンカーである14-3-3蛋白質と結合し、細胞質に局在するという訳です。
一方、高浸透圧ストレスの場合は、同じmechano-chemical でもYAPを一過的に核内へと局在することが知られています。細胞に浸透圧ストレスがかかると、LATSによるSer127のリン酸化に加えて、NLKによりSer128がリン酸化されます。このSer128のリン酸化は14-3-3との結合を阻害し、その結果、YAPは細胞質に引き留められることなく、核内へと移行していきます。ここまでが先行研究で分かっていたことになります。

さて、本論文ですが、まず、YAPには自発的に液-液相分離による凝集体を作る性質があり、高浸透圧ストレスにより細胞質内・核内の両方において凝集体を形成することが突き止められます(Fig.1 -3)。細胞質で作られる凝集体を詳細に解析したところ、前述のLAT1/2やNLKといったkinaseを取り込まれていました(Fig.4)。凝集体を形成することで、NLKによるリン酸化が促進され核内にYAPが移行していくものと思われます。また、核で作られる凝集体を解析したところ、TEAD1やTAZといった転写因子を取り込む性質があることが分かります(Fig. 5)。

さらに3D ATAC-PALMという最近開発された手法(非常に美しい実験手法です)を用いて、chromatin accessibilityを可視化してやると、高浸透圧ストレスに曝した5分後には、染色体が緩い部分がクラスター(ATAC-labelled cluster)が形成されます(Fig. 6C)。YAP-EGFPによりYAPの局在も同時に可視化してやったところ、全てのATAC-labelled clusterがYAPの凝集体と重なっていることが分かります(Fig. 6F)。さらに、高浸透圧ストレス暴露10分後にはRNAポリメラーゼIIがYAP凝集体の表面に局在するようになり(Fig. 7C)、YAP凝集体からmRNAが新規に合成される像が観察されていました(Fig. 7D & E)。高浸透圧ストレス暴露3時間以内にはYAPの標的遺伝子であるCtgf and Cyr61のmRNAレベルが認められました。

これらの結果から、YAPは高浸透圧ストレスに際して、液-液相分離による凝集体を形成し、細胞質ではNLKによるリン酸化を促進することで核への移行を高め、核では転写因子とエンハンサーを集める(ATAC-labelled clusterとして観察されたもの)ことで転写効率を高めていると考察できます。すこし論理を詰めきれてないところもありますが(Fig.7で頑張っている感はありますが、凝集体の形成が本当に必須なのかは不明)、非常に美しい結果で、ため息がでます。