科学論文紹介

妊娠高血圧症候群や子宮内胎児発育不全のメカニズム解明に向けて

イラストACからのイラスト

周りで「おめでた」が多くなってきて、なんとも言えぬ感情が芽生えつつある今日この頃(もちろんは祝福していますよ!)。
さて、私の周りでは母子ともに健康という幸せな知らせばかりでしたが、妊娠合併症に苛まれ、最悪の場合、母子ともに命の危険にさらされるというのは決して珍しいケースではありません。
しかし、妊娠合併症の原因究明はあまり進んでいません。これは、ヒトの胎盤形成に関する機能的な実験モデルがないためです。そんな状況の中、ヒト胎盤形成の研究に光を差す研究が立て続けに3本も報告されました。

胎盤形成について

まず簡単にですが、妊娠初期の胎盤形成について。
精子と卵子が融合してできる受精卵は次々に分裂し、将来、胎児になる部分と、胎児以外になる部分(胎児を助ける組織)に分かれます。この胎児以外になる部分はtrophectodermと呼ばれます。このtrophectodermがさらに分裂・分化をつづけ、胎盤を形成するtrophoblastという細胞が作られます。trophoblastにいくつか種類があり、大きく、cytotrophoblast (CT), extravillous cytotrophoblast (EVT), syncytiotrophoblast (ST)の3種類に分類できます。

cytotrophoblast (CT)

高い分裂能力とEVTやSTに分化する能力を持つ

extravillous cytotrophoblast (EVT)

子宮内に浸潤し、母体血を胎児に誘導するなどの役割を担う

syncytiotrophoblast (ST)

胎児と母体の栄養交換やガス交換などを担う

ヒトtrophoblast stem cellの樹立に成功

stem cellとは幹細胞のことで、分裂能と分化能をもつ細胞を差します(皆さんご存知iPS細胞は、induced pluripotent stem cellです)。体外で維持できるヒトtrophoblast stem cellが樹立できれば、分子・機能的特徴を研究する強力なツールになりますが、長らく成功してきませんでした。この状況に終止符を打ったのが、Okae等の報告です(1)。樹立されたtrophoblast stem cellは、体内のCTと似た遺伝子発現プロファイルを示し、刺激を加えてやることでEVTやSTにも分化できることが証明されていました。

ヒトの研究というのはどうしても、因果関係でなく相関関係しか分からなかったり、再現性に乏しかったりします。体外で幹細胞として維持できることにより、遺伝子操作によって病気の因果関係を突き止めることや、再現性を取って確信に至ることが可能となります。

また、マウスのtrophoblast stem cellは古くから樹立されており、初期胚に入れてやると胎盤に分化できることがほうこくされています(胎盤キメラ!)。ヒトの胎盤をキメラにすることは倫理的にできませんが、マウスなど異種の初期胚に入れてやることで、生体レベルで胎盤形成能があるかの確認が今後必要になると思われます。

ヒトtrophoblastオルガノイドの作製に成功

オルガノイドとは、試験管内で作られた3次元臓器のことをいいます。体外で細胞を維持する場合、ほとんどが培養皿上で平面に細胞を配置することになります(2次元)。しかし、体内の細胞は3次元に配置され臓器を形作っており、2次元に配置されているわけではありません。これまで、色々な臓器でオルガノイドが構築されてきており、より体内の細胞を模倣できることが多数報告されています。

当然、胎盤研究においてもオルガノイド作製に取り組むことになりますが、これに成功したのが、Haider等(2)とTurco等です(3)。2018年8月、2018年12月に報告された別々の研究グループからの報告になりますが、細かな点はやや違うのものの、かなり類似した方法と結果になっています。別々のグループの類似した研究が立て続けに報告されることはよくあるのですが、見かけるたびに畏敬の念を禁じ得ません。一流の研究者が、最速、最善の手法を取っているために似た研究に収束していくのでしょう(政治的な面もあったりしますが、、、)。

さて、研究紹介ですが、どちらの報告でも、極めて初期の胎盤(前者妊娠6-7週、後者妊娠9週目以内)から細胞を回収し、様々な因子を添加した培地で培養することで、自己複製可能なオルガノイドを作出しています。添加する因子や自己複製可能な期間は両者で違っていました。
どちらの報告でも、オルガノイドの培養を続けると、CTとSTからなる胎盤の細部構造に極めて似た構造をとること、分子レベルで胎盤を再現できていることが示されていました。さらに、妊娠に際してSTから分泌される因子も検出され、機能レベルでも胎盤に類似しているようです。
さらに、維持しているオルガノイドに刺激を加えてやることで、EVTも誘導できることが証明されていました。誘導の方法は両者の報告で違っていましたが、両者とも分子レベルでEVTを再現できているようです。さらに後者では、EVTの浸潤能力も示されており、機能面においても再現できているようでした。

終わりに

実験モデルが構築されたことで、爆発的にヒト胎盤形成への理解が深まるのではないかと思われます。ちなみに、この3本の論文はすべて今年(2018年)報告されたもので、たった1年の間に立て続けにヒト胎盤形成の実験モデルが報告されたのは驚きです。将来、2018年がヒト胎盤研究の元年と呼ばれたりするのかもしれません。

今回の文献

1. Cell Stem Cell. 2018 Jan 4;22(1):50-63.e6. doi: 10.1016/j.stem.2017.11.004. Epub 2017 Dec 14 (pubmed).
2. Stem Cell Reports. 2018 Aug 14;11(2):537-551. doi: 10.1016/j.stemcr.2018.07.004. Epub 2018 Aug 2. (pubmed)
3. Nature. 2018 Dec;564(7735):263-267. doi: 10.1038/s41586-018-0753-3. Epub 2018 Nov 28. (pubmed)